第38話 心の変化?


 今日も講義が終了し、大地はとぼとぼと帰路に着いた。


 大地はぼーっとしながら、大学の正門に向かっていた。


 彼は今、頭の中が空っぽだった。何をしても集中できない。照に振られて、連絡がつかず、避けられてからずっとこうだ。


「先輩!森本先輩!」


 後ろから誰かが駆け寄ってきた。光だった。彼らは昨日ぶりだった。


「また?次は何?」


 大地は怠そうに半目で光に顔を向けた。


 光は彼の態度にぴくっと顔を引き攣らせた。


「すいません。先輩。ちょっといいですか」


 光は俯きながら、細く低い声を出した。


「いいけど、すぐに終わる?」


 大地は光の様子に気づかず、相変わらずの態度だった。


「・・・はい。本当にすぐに終わります。だから、私について来てください・・・」


 光は大地に目もくれず、すたすたっと前方を歩いて行った。


 大地は内心、めんどくさいと思いながら、重い足を上げて光の後を追った。


「ここらへんでいいか」


 光はようやく足を止めた。


 大地もそれに倣って停止した。


 彼らは現在、人気の無い場所に身を置いていた。場所は大きな校舎が建った日陰のところだった。おそらく、ほとんどの学生が普段、ここを訪れないだろう。


「それでなに?早く終わらせてよ」


 大地は頭を掻きながら、光の後ろ姿を視界に捉えていた。


 すると、いきなり光は振り返り、ずんずんっと無言で大地に接近した。すぐに、大地のもとに到着するなり、彼の胸ぐらを掴んで近くの校舎の壁に叩きつけた。


「っ。いきなり何すんだよ!」


 大地は背中に鈍い痛みを覚えた。それから、不審な行動をした光を睨みつけ、怒りの籠った低いを漏らした。


「うるさいです!!」


 光は大地に対抗するように大きな声で叫んだ。


「本当に、うるさいです」


 光は胸ぐらを掴む腕により一層、力を加えた。


「先輩はばかですか?本当は三宅先輩と一緒にいたいんですよね?なのに、なんで一緒にいようとしないんですか?」


 光は勢い良くまくし立てた。


「なっ・・・」


 大地は予想外の光の言葉に戸惑いが隠せなかった。その証拠に彼は口が半開きになっていた。だが、一瞬で我に帰った。


「そんなの!避けられているに決まってるからだよ!!俺は照に振られたんだよ!!!嫌いになったって言われてなー」


 大地はムキになりながら、額に皺を寄せ、光の腕を強く振り払った。


「そんなの関係ないですよ!!」


 光は再び、大地の胸ぐらを掴んだ。しかも、先ほどよりも力強く。


「先輩は何を見て来たんですか?まさか、三宅先輩があなたのことを嫌いになると思いますか?なるわけないでしょう!何か理由があると考えなかったんですかー!!」


 光の腕はぷるぷるっと震えていた。


「・・・」


 大地は光の言葉に衝撃を受け、目を大きく見開いた。そうだ。なぜ、それを疑わなかったんだと。胸中で自身に疑問を抱いた。


「なにやったんだろう私。関係ない人間なのに」


 光はパッと大地から手を離した。


 大地は校舎の壁に寄り掛かりながら、自然と地面に座り込んだ。


「これからどうすればいいか、自分で良く考えてくださいね・・・」


 光はそれだけ残すと、踵を返し、大地を気に掛ける素振りも見せずに、その場から立ち去った。


 大地は彼女の後ろ姿を見つめることしかできなかった。


 だが、1つ彼には変化があった。それは心だ。冷めていた心がなぜか熱くなった。


 それから、『何か理由がある』といった言葉が何回も脳内で再生された。そして、その言葉が起因して、大地は照にまた会って話し合うことを決意した。


 照の本当の気持ちを知るために。

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