第37話 行動を促す言葉
大地が照から別れの言葉を告げられて1週間が経過した。
後日、大地は何とか話をしようと、照に電話やSNSで連絡をした。しかし、ブロックしているのか。何度掛けても、彼女とは繋がらなかった。
また、大学内で照が1人の時を狙って接触して、話し合いの場を設けようと試みた。だが、彼女は大地と遭遇した直後、すぐに駆け足でその場を去った。完全に大地は避けられていた。
幾度と連絡をしても、反応が無く、出会えば逃げられる。それが頻繁に続き、大地は諦めモードになってしまった。
あれから、大地は照と一緒に帰ってなければ、校内を歩いていない。
ただ放心状態で講義に出席し、1人で食堂で昼食を取り、すべてが終わるなり、帰路に着いていた。
そして、今日も1人で周囲に誰にも座っていないテーブルでラーメンを食していた。
ただ無表情でずるずる麺を啜っていた。虚無感に心が支配された状態で。
「どうしたんですか?覇気の無い顔をして」
突如、とある女性の声が大地の鼓膜をやんわりと刺激した。彼にとって、その女性の声は聞き覚えのあるものだった。
だが、大地は決して視線をラーメンから外さなかった。もはや、その素振りも見せなかった。今は、そんな気分ではなかった。1人でいたかった。
声の主が照であれば話は別だった。ただ、生憎、声は明らかに彼女の声色とは一線を画していた。
「先輩!お〜い!無視しないでください!」
声を掛けた女性は強い口調で不満を口にするなり、大地の目の前の席に座った。それから、うどんが載ったお盆をテーブルに置いた。
大地は仕方なく、面倒臭そうにラーメンから目の前の女性に視線を推移させた。
「なんだ。青木さんか・・・」
大地はあからさまに興味なさそうな表情を示すと、即座にラーメンへと視線を移した。彼はもう照に話し掛けられない限り、誰かと会話する気が起きなかった。それほど、大地は照を求めていた。心底、復縁したいとも考えていた。
しかし、照は決してそうではないだろう。
「なんですか!なんだ、って。その言葉、ちょっとムカつきますね」
光は露骨に眉間に皺を寄せ、不機嫌な様子を露わにした。よく見ると、睨みつけているようにも思えた。
「最近、元気なさそうですよね?どうかしたんですか?」
光は表情をころっと変化させ、大地の様子を窺いながら、言葉を投げ掛けた。
「別に何もないよ。青木さんの勘違いなんじゃないかな?」
大地は普段では考えらないほど、冷たい口調で光を突き放すような態度を取った。正直、彼は質問をされたことに苛立ちを覚えていた。
「そうですか?私にはそう見えませんけど」
光は真剣な顔で大地の瞳を覗き込んだ。その行動には何か意図があるようにも見えた。
一方、大地は光の態度と視線に対して内心、大きな怒りが渦巻いていた。
彼女の分かっている風な態度とじっと凝視する行為が癪に触って堪らないのだ。大地は『何も分かっていないくせに』っと胸中で悪態をついた。
「だから、勘違いだって本人が言ってるじゃないか。本当に。知った風な口を聞くなよ!」
大地は声を荒らげはしなかったが、通常よりも強い口調で不満を口にした。
大地はこのままでら怒鳴ってしまうと感じた。だから、強くかぶりを振った後、お盆を持って素早く立ち上がった。まだ、ラーメンは半分以上残っていた。
大地は光を一瞥してから背を向け、歩き始めた。食堂のカウンターにお盆や器を返却するためだ。
大地は現在の光がどういった顔を作っているだろうかと、想像を膨らませたが、残念ながらイメージを創造することはできなかった。
「先輩!自分の気持ちに正直にならないと必ず後悔しますよ!!それでもいいんですか?このままでは本当にその通りになりますよ!!!」
光は勢い良く立ち上がり、食堂にも関わらず、大きな声で大地にメッセージらしきものを送った。
周囲の人間は一斉に声の源泉である光にがっと視線を集中させた。だが、光は全く気に留めた様子は無かった。
彼女は真っ直ぐ大地の背中を見つめていた。大地の止まらず、離れていく背中を。
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