第29話 決断


 日付は9月20日。時刻は午後22時。夏休み最終日の夜。


 大地は自宅のベッドにうつ伏せで寝転がっていた。


 彼の自宅は山西大学から徒歩10分の場所にある学生マンションである。そのため、彼以外の山西大学の学生もこの学生マンションに住んでいる。


「競争は始まっている・・・か」


 大地は以前、照が口にした意味深な言葉を想起して、体勢をうつ伏せから仰向けへと移した。


「あの言葉は、俺を巡っての笠井さん、青木さん、三宅先輩の戦いを示唆している」


 大地は天井の一点を見つめながら、ぼそっと独り言をつぶやいた。


 そう。彼は照から「競争」という言葉を聞き、すぐに何を意味しているのかをうすうすだが理解した。


 そして、彼女たちが大地に好意を抱いていることも。


 だが、その時は自身の推測に自信がなかった。しかし、夏休みで彼女達と触れ合う中で彼の推測が徐々に確信へと変わった。


 それから、時が経過して今に至る。


 夏休みの期間、大地は公香や光、照と数えきれないほど遊んだ。彼が家族としか足を運んだことがない、水族館、ビジネスホテル、遊園地など様々なスポットを彼女達と訪れた。


 彼女たちと共に過ごした時間は大地にとっては貴重なものであった。そして、その時間を経て、彼は彼女たちの魅力にどんどん魅了されていった。


 初めは全員にある一定の好意はあった。だが、異性としての好意は一切持っていなかった。


「だけど、決して全員とは付き合えない」


 大地はがばっとベッドから勢いよく立ち上がるなり、勉強机に載ったペットボトルを掴んだ。


 流れるようにキャップを開き、中に入ったお茶を体内に投入した。


「だから、選ぶ必要があるんだ。自分が付き合いたい女性を」


 大地は普段見せない覚悟を決めた顔を作るなり、ぽんぽんっと軽く頭を叩いて脳みそを稼働させる準備をする。


『俺はどんな女性を恋人にしたい?』


 大地はそう自分自身に問い掛けた。


 可愛い子、きれいな子、スタイルが良い子、胸がでかい子、性格が良い子、優しい子、母親みたいな子、一緒にいて安心する子などがある。どんな条件を求めるんだ?


 そんな時、ある日の母親の言葉が彼の脳内で突如思い起こされた。


『大地、あなたがもし、付き合いたい人ができたときは必ず自分らしさを出せて、ありのままをさらけ出せる人と付き合ってね』


「そうか。そうだよね。母さん」


 大地は薄く笑顔を浮かべてから、安堵したような安心したような表情を示した。


 数秒後、彼はテーブルにあったスマートフォンを掴んだ。


 もう決断した。これから、自分らしさをさらけ出せる女性に連絡をする。


 おそらく、この判断は正しいのだから。


 そのために、大地は素早くスマートフォンのロックを解除して、ある女性の連絡先をタップした。

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