第28話 ショッピングで服選び


「あっ!!あそこにアパレルショップがありますよ!次はあそこに行きましょう!!」


「ちょっ!先輩、少し落ち着いてくださいよ・・・」


 照は大地の手を強引に引っ張りながら、上機嫌な様子で早歩きになりながら、次なる目的地である有名なアパレルブランド店に向かった。


 その結果、大地は全く抵抗できずに、照によってずるずると連行される形となった。


 現在、大地と照は県内で最大の面積を持ったショッピングモールにいる。


 今日は休日ということもあり、ショッピングモール内にはカップル、家族、友人達でありふれていた。


「わ〜。魅力的な服がたくさんありますね〜〜」


 照は幼い子供みたいに目を輝かせながら、アパレル店のあたり一面に視線を移動させた。


 大地は照の無邪気な一面がちらっと窺えたため、不思議とほっこりした気持ちを抱いた。


「森本さん、森本さん。どうしたんですか?ほっこりした顔して」


 照はつんつんっと大地の腕を優しくつついた。


 大地は彼女のおかげで我に返り、頭を左右に振り終わった後、「なんですか?」といった表情で照に薄く微笑んだ。


「あっ、これ森本さんに合いそうですね!!」


 照はつま先を浮かして背伸びするなり、近くで佇むマネキンがかぶっていた帽子を手に取り、大地の頭に軽くかぶせた。その帽子の色はホワイトな上、ワンポイントのロゴが印象的であった。


「あ!やっぱり私の思った通りです。ばっちり似合っていますね」


 照はウィンクして、グッと大地に対してサムズアップした。


 しかし、大地から照に向けての反応は無かった。彼はなぜか頬を朱色に染めて、彼女から目を逸らしていた。


 照にとっては何の意図もない何気ない行動だったかもしれない。だが、大地にとってはドキッとさせられた行動だった。なぜなら、彼は異性にファッショングッズを付けてもらい、褒めてもらった経験がこれまで皆無だったから。


「さて、私から森本さんにお願いがあるのですが」


 照は反応が無い大地の腕を引き、レディースコーナーへと場所を変えた。それから。


「お手数ですが、私に似合うと思う服を森本さんに選んで欲しいのですが・・」


 照はほんのりと頬を赤らめながら、上目遣いで甘えるようにおねだりした。落ち着かないのか。彼女の両手はもじもじと忙しなく動いていた。


 一方、大地はというと、レディースコーナーに囲まれて困惑した様子だった。


「え〜っとですね。本当に俺でいいんですか?女性の服に関する知識は皆無な男なんですけど、大丈夫ですか?」


 大地は内心、怪訝に思いながらも、照にそのような言葉を掛けた。


「はい!是非、私のために選んでください!」


 照は先ほどの恥ずかし気な表情とは打って変わり、はきはきとした口調で返答した。だが、そんな彼女でも未だに頰はわずかに赤く染まっていた。


「・・わかりました。では、少し俺に時間をください」


 大地は照が本気であることを推量した上で、顎に手を当てながら、レディースコーナーにある服を見て回った。


 レディースコーナーには女性らしさを象徴するブラウスやらショートパンツ、ロングスカートなどが多々展示されていた。


 数分後、ようやく大地はレディースコーナーを1周した。彼はその間、どんな商品があるのかを大方把握した。


「よし!決めた!!」


 大地は意気込むようにそう口にするなり、真緑のブラウスと無地のホワイトTシャツ、水色のショートパンツをそれぞれ手中に収めた。


「三宅先輩。これでお願いします。スタイルの良い先輩なら必ず似合うと思います!」


 大地は自信満々な顔で照にそれらの服を差し出した。実際には、彼の自信満々な表情は取り繕ったものであり、胸中では不安で不安で仕方がなかったのだが。


「あ、ありがとうございます。・・・では、一緒に試着室に行きましょう」


 照はそれらの服を受け取るなり、大地と共に現地点からおよそ3メートルほど先にある試着室へと足を運んだ。





「ど、どうですか?・・・ふ、普段、ショートパンツなんて履かないので恥ずかしいです」


 照は自身の私服から大地に選んでもらった服へと着替え、試着室のカーテンから登場した。


「・・・ーー」


 大地は目を見開き、呆然としながら閉口していた。


 彼の目の前には、女性の華奢な腕を覆う袖の長いブラウスに、健康的で雪のような真っ白な生足を盛大に隠すことなく露出させる水色のショートパンツを着こなす照の姿があった。


 照は大地が選んだコーディネートをばっちり着こなしていた。


 ブラウスは彼女の豊満な胸を強調し、ショートパンツはエロく、男の理性を狂わせる生足をより良く見せていた。


「に、似合って・・・ないですか?」


 照は不安そうに大地の様子を窺っていた。


「す、すごいです!想像以上です!本当に、三宅先輩のために製作された特注品にしか見えないですよ!!」


 大地は鼻息を荒し、興奮しながら、ぱちぱちと拍手して照を褒め称えた。確かに、それほど照は彼が選んだ服を自分のものにしていた。


 ほとんどの男性が彼女の今の姿を視認すれば、虜になってしまうだろう。


「そ、そうかな。えへへっ。嬉しいです」


 照は予想外の褒め言葉にあからさまに顔を綻ばせた。その証拠に頰は緩み、わずかに白い歯が口内からひょっこりと姿を露わにしていた。どうやら、大地の言葉がこの上なく嬉しかったようだ。


 大地はさっきから彼女の仕草や表情に散々振り回されていた。


「そ、それじゃあ、すぐに着替えて、購入してきます」


 照は大地に背中を向けるなり、優しく試着室のカーテンを閉じた。


 その後、彼女はそれらの服を大切に抱えながら、鼻歌混じりに店のレジへと進んで行ったのだった。

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