第27話 外食

 夏休みのある日。時刻は午後15時。


 大地は大学の近所にあるファミレスの目の前で佇んでいた。彼は大学で講義を受ける際の服装と同じで、ホワイトのTシャツにチノパンを着ていた。


 彼はある人物と待ち合わせをしていた。


 大地は待ち合わせ時間よりも15分も早く集合場所のファミレス前に到着していた。


 彼の前を学生カップルや社会人が幾度となく通過した。


「先輩!遅くなってすいません。自宅を出発する前に、どの服を着ていこうか迷ってしまって」


 大地が集合場所に辿り着いてから10分後、光が早歩きをしながら現れた。


「全然大丈夫だよ。気にしないで。それにしても、青木さんは相変わらず上下同じ色の服装なんだね」


 大地は自身と同じように、大学の時と似た系統の服装をした光に対して苦笑いを浮かべつつ、不思議と親近感も湧かせていた。


 その証拠に、光は上下真っ白の長袖ジャケットとズボンを身に纏っていた。


「それじゃあ、入ろうか」


 大地は光を見つめながら、ファミレスの入り口を指差した。


「はい!」


 そして、彼らは大地を先頭にしてファミレスの中に入店した。


「わぁ〜!美味しそう〜〜」


 光は注文したいちごパフェが運ばれるなり、普段のクールな姿とは異なり、わくわくしたように目を輝かせていた。


 光は長いスプーンでパフェの一部を掬うなり、即座にそれを口に運んだ。


「ううんっ。美味しい!!」


 光は真っ平らな胸の前で両拳を握りしめながら、幸せそうな表情で右の頬に手を添えた。


「すごい、美味しそうに食べるね。それに、そんな顔もするなんて知らなかったよ」


 大地はプリンをすくった状態で微笑ましげに向かいの席に座る光を眺めていた。


「意外でしたか?私、こう見えても、甘い物には目がないんです。だから、美味しい食べ物や飲み物を口にしたら、自然と顔が綻んじゃうんです」


 光は恥ずかしそうに頬を紅潮させながら、再びペロッとちょっとだけパフェを食べた。


「それにしても、先輩の注文したプリンって美味しいですか?」


 光は身を乗り出して興味深そうに大地のプリンを覗き込んだ。


「う。うん。1口食べたけど美味しかったよ」


 大地は目を光らせながらプリンをじっと凝視する光を一瞥した後、自身が保持するスプーンに意識を向けた。


「たべる?」


 大地は顔をわずかに傾け、光にそのように問い掛けた。


「・・・はい!」


 光は大地の声に反応し、満面の笑みで元気に返事した。


「じゃあ、さっそくいただきますね!」


 光は大地の了承を得ずに、素早くスプーンを使ってプリンの一部を掬い、口に運んだ。


「うん!うん!すごく甘くて、カラメルも絶妙で最高です!!」


 光は先ほどと似た表情を露わにした。非常に幸せそうだった。


 一方、大地は彼女の顔の変化を間近で視認するなり、自分も嬉しい気持ちになった。


「あ、ごめんなさい!今度は私がお返しをしないとダメですね。こ、これを」


 光は即座に長いスプーンでパフェを取るなり、大地の顔の前に差し出した。


「えっ。それって」


 大地は動揺した様子で光の瞳をじっと覗き込んだ。彼の目は決して彼女を捕えて解放しなかった。


「お、男の人はこういうの好きですよね?」


 光はりんごみたいに顔を真っ赤にしながら、控えめに指を口元に当てていた。


「・・・」


 大地は頭が真っ白になり、盛大に困惑しながら、現状況に身を置いていた。


「は、早くしてください!そろそろ限界です」


 光は以前よりもさらに頬を赤くしながら、より一層、大地の口元にスプーンを接近させた。


「・・・。う、うん。そうだよね。わ、わかった」


 大地は労力を消費して我に返り、とても躊躇しながらも、差し出されたスプーンを咥えたのだった。

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