第25話 ハーレムとはこういうこと
8月半ば。山西大学は夏休みに突入していた。
空は青く、太陽の日は明るく、気温は30度を超える熱い夏が8月の特徴である。
そんな炎天下が続く世界で大地は電車に乗っていた。
電車は小刻みにガタンゴトンっと車両を揺らしていた。
そんな環境下で大地は車両内に設置された座席に腰を下ろしていた。ちなみに、彼が座る席の前には向かいの座席が存在した。
「ちょっと、そろそろ変わってくれない?」
「そうですよ!長時間、居座りすぎですよ!!」
公香と照は両者共に口を尖らせながら、大地の向かいの席に座っていた。
「ごめんなさい。それは無理です。森本先輩の隣は私ですから。残念ながら譲れません!」
光は2人に反論するなり、あからさまに隣に座る大地に身を寄せた。
「あ~!何してるの~」
公香は勢いよく座席から立ち上がるなり、光を大地から剝がそうと試みた。
「ちょ、ちょっとやめてください!」
光は必死に抵抗して、公香に剝がされないように、大地の腕にがっちりとしがみついた。
「な~!?今度は腕も触って~」
公香は電車内にも関わらず、大きなリアクションを示し、多大な声をあげて嘆いた。
一方、照は満面の笑みで大地と光を見据えていた。しかし、なぜか、彼女の瞳は決して笑っていなかった。不気味な雰囲気が漂っていた。
「ちょ、ちょっと、ここは公共の場だから。静かにして!それと、三宅先輩も黙って見てないで、注意してくださいよ!」
大地は周囲の嫌悪感を帯びた視線に耐えきれず、ぎゃあぎゃあ騒ぐ公香と光を注意しつつ、照に縋るように救いを求めた。
しかし、公香と光は全く留まることを知らず、照も一切ヘルプを出さなかった。もはや、その素振りも見せなかったほどだ。
最終的に、彼らが電車を降車するまで、長々と彼女たちの掛け合いは続いたのだった。
現在、大地は山西大学の最寄駅から電車で20分ほどで到着する市民プールに身を置いていた。この市民プールは室内プールであり、中には学生、カップル、社会人など多様な社会環境に身を置いた人間達で溢れていた。
「到着して間もないのに、何か異常な疲労感を感じるな」
大地は短パンの水着姿で公香達を待っていた。
残念ながら、彼は中肉中背の肉体なため、筋肉で女性を惹きつけることはできない。そのため、現時点で彼に声を掛ける女性はプール内にいなかった。
大地は公香達が通過すると予想できる入口のすぐ近所で待機していた。なぜなら、彼女たちがプール内を散策してしまうと、陽キャや自分に自信を持った男達にナンパされる可能性があるからだ。そのため、大地はそれを考慮して、彼女たちをナンパ男から守るために進んでこういった気遣いをしているのだ。
「あっ!!森本さん!!待っていてくれたんですね~~!」
いち早く着替えを終えたであろう、照が駆け足で大地目掛けて駆け寄って来た。
彼女はメインの色を白とした水玉模様のビキニであった。はち切れそうな豊満な胸が水着を破壊してしまいそうだった。
「走ったら危ないですよ。三宅先輩」
大地は徐々に距離を詰めて移動する照を軽くたしなめた。
「私のこと心配してくれたんですね。本当に森本さんは優しいんですね」
照は大地の元に辿り着くなり、無邪気な笑みを浮かべながら、彼の左腕にふわっと抱きついた。その結果、生の柔らかい弾力ある胸が大地の左腕に遠慮なしに衝突した。
「ちょ、ちょっとこんなところでやめてくださいよ。それに、笠井さんと青木さんは一緒じゃないんですか?」
「ここだからこうするんですよ。それと、私が後の2人よりも早く着替えを済ませた理由は、既に競争が始まっているからですよ」
照は抱きつきながら、上目遣いで意味深な言葉を紡いだ。
「そ、そうなんですか?それと、競争ってなんですか?まさか・・・」
大地には見当のつく事柄がたった1つだけ脳内にあった。
「それは、・・・ダメですよ!まだ言っちゃ」
照は微笑みながら、意図的に人差し指を大地の口元に当てて、彼の言葉を強引に遮った。
「・・・は、はい。すいませんでした」
照の指のぬくもりが大地の唇に直にほくほくと伝わった。
「あ~!先越された!!三宅先輩、早急に森本君から離れてください!」
「そうです!早く先輩から手を引いてください!」
公香と光は大地にぎゅっと密着する照を認識するなり、必死な形相で彼らの佇むエリア目掛けてダッシュした(もちろん、市民プールで走るのは禁止である)。
公香は赤の上下のビキニでふっくらと推定Dカップはある胸を露にしていた。一方、光は真っ平らだったが、すらっとしたスタイルの良い美しい身体に背伸びをしたブラックのビキニを着用していた。
「あらあら、想定より早かったですね。残念ですが、ここらで独り占めの時間は終了ですかね・・・」
照はほんの一瞬だけ名残惜しそうな表情を作ったが、即座にいつもの余裕な顔に戻った。そして、ゆっくりとわずかに大地から距離を取った。
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