第21話 怒り
「ちっ。なんなのよ。せっかく1番楽しいところだったのに」
リーダーの藤原はあからさまに不快な顔を表面的に剥き出した。
一方、仲間の2人は予想外の展開に戸惑ったご様子だった。
「どうしますか?リーダー。無視しますか?」
照の腕を掴み、自由を奪っている1人が困惑した表情でリーダーの藤原に救いを求めた。
「いや、もしこいつに叫ばれた場合、教員や職員を呼ばれる可能性がある。だから、無視はできない」
藤原はたっぷり弾力のある顎に手を当てながら、咄嗟に考える仕草を披露した。
「では、どうすれば・・・」
もう1人の仲間も困ったオーラを醸し出しながら、瞳を揺らしながら、藤原を眺めた。
「焦ることないわ。私が対応するから」
藤原は目で合図するなり、2人の仲間の心境を推測してから、ドアノブに手を掛けた。
それから数秒後、藤原は内側からドアを開けた。
「おっ!ラッキー。思ったよりも、早く開けてくれたなー」
ドアのすぐ目の前にいた人物は強引に藤原を退けて、待機室に容易に侵入した。
藤原はドアの目の前にいた人物に軽く身体をぶつけられ、よろけた後、フロアの床に転がってしまった。
「ちょっと!何すんのよ!!あんたー!!!」
藤原は重そうに自身の身体を起こすなり、先ほど待機室に侵入した人物の後ろ姿目掛けて怒り声をあげた。
「うるせえよ。デブ。黙っとけよ」
当の人物は躊躇わず、冷酷な口調で藤原を罵った。その人物は男性であり、背丈は160センチ前半な上、中肉中背の体形を所持していた。
「な、なんですってぇ~!私がデブって、ほ、本気で言ってるのー!!」
藤原は突然、悪態をつかれ、動揺した顔で対抗するようにもう1度、大きな声をあげた。おそらく、体型のことは本人も気にしているのだろう。
「本気だよ。鏡しっかり見ろよ・・・」
待機室に身を置く男性は心底、呆れた顔で吐き捨てた。
「きぃ~~。しっかり見てるわよ~~」
藤原は虫みたいに高い声で叫んだ。
「さてっと、うるさい人は無視しといてっと」
「「くっ」」
照の腕をそれぞれ掴み、自由を奪う2人の藤原の仲間はプレッシャーを覚えたのか。ぴくっと肩を上下させた。
照は何事かと思い、今まで下方に向けた視線を上方に推移させた。すると、彼女の視界は見知った人物の姿を捉えた。
「・・・森本さん・・・」
照は大地を視認するなり、救世主を見たかのような安堵した表情を露にした。
「やっぱり」
大地も照のきれいな整った顔を認識するなり、彼の後方に佇む藤原を睨みつけた。
「ひっ!?」
藤原は大地の鋭い目に捕まった途端、びくんっと一瞬だけ身体を震わせ、短い悲鳴を漏らした。
「ふざけやがって。しょうもねぇことしてんじゃねぇよー!」
大地は叫ぶように怒鳴るなり、近くにあったイスを蹴り上げた。
イスはひっくり返り、ガシャンっと床に叩きつけられた。
「「「ひっ」」」
藤原達3人が一斉に仲良く悲鳴に似た恐怖を帯びた声を漏らした。照は普段では想像できない怒りを見せる大地に驚きを隠せないでいた。
その証拠に、照の目は大きく見開かれていた。
「他人と違う特徴を持っているからむかつく。それが気に入らないからやったってか。ふざけるなよ!差別なんてすんじゃねぇーよ!!しかも、女性にとって大事な髪を剃り上げようなんて、頭おかしなことしようとしやがってー」
大地は溜まった怒りを吐き出すように、勢い良く捲し立てた。
彼がこのように怒るのには理由があった。大地は中学生のとき、髪色は茶色だった。これは、彼が生まれながらにして茶色の髪を保持していることを意味する。
だが、この茶髪が原因で大地はきもい、汚いなどの罵声を同級生の男子生徒達から何度も浴びせられた。
その過去の出来事がトラウマになり、大地は大学生になって髪を茶色から黒に染めたのだ。
その上、大地は小学生時代に暴力を中心としたいじめも経験している。
そのため、彼はいじめや差別が大嫌いだった。それで、照がいじめられている光景を目にして怒りが抑えられなくなってしまった。
「ど、どうしたんですか?誰かの大きな怒鳴り声がしましたよ」
おそらく通常よりも早めに来た、照と親しい人物が動揺した表情で駆け寄ってきた。
「って。森本君!どうしたの?確か、以前にアルバイトを辞めてたよね」
彼女は不思議そうな顔をした直後、事態がただ事ではないと、理解して顔を強張らせた。
「な!?森本、ですって。以前までここでアルバイトをしていた。あの」
藤原はようやく大地を想起したようだった。
「渡辺先輩。お久しぶりです。お手数おかけしますが、アルバイトが始まる前に、藤原先輩と残りの取り巻きが照先輩をいじめていた事実をメンバー全員に伝えていただけませんか。これは問題だと思うので」
大地は「よろしくお願いします」っと頭を下げるなり、藤原の真横を無言で通過して、その場から姿を消した。
それから、渡辺によってすべての事実がアルバイトメンバーに伝えられ、照からの証言も合わさって、藤原達3人の居場所はなくなってしまった。
その結果、居場所を失った3人は無様にアルバイトを辞めてしまった。おもしろいことに、藤原達は肩身が狭くなって1日後にアルバイトから姿を消した。
人を傷つけたくせに、傷つけられたら、すぐに逃げてしまう最低で弱い人間達であった。
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