第20話 呼び出し


 照はいつもより30分早くアルバイトの待機室に到着した。


 彼女が待機室に入室すると、まだ誰も部屋には人が存在しなかった。


「あら、まだリーダーは来てないのですね」


 照は不思議そうな顔を露わにするも、何も置かれていない机に清掃用の服が入ったバッグを置いた。


 照は1人しかいない空間で、清掃用の服である白のポロシャツと紺の長ズボンに着替えた。


 すると、照が着替え終わった直後、ぽっちゃりとした体型に丸いふっくらした顔をしたメガネの女性が入室してきた。リーダーである。


 そして、リーダーに倣うように2人の女性も続いて部屋に入室した。


「あっ、皆さんこんにちは」


 照は嫌悪感を一切表に出さず、進んで笑顔を浮かべ、挨拶を行った。


「ぐふふっ。やっぱり、私の呼び出しを無視しなかったわね」


 リーダーは不気味な笑い声を手で抑えながら、部屋の鍵を内側から施錠した。


「よしっと。これで誰も入って来ることはないわね」


 リーダーは手に持っていた鍵をテーブルにポイっと放り投げた。その結果、カシャンっといった衝突音が待機室に木霊した。


「えっ。どうしたんですか?リーダー。それに今日のリーダー、何かいつもより一段と怖いです」


 照はリーダーから発せられるオーラに恐怖を覚えたのか。ゆっくりと後退りした。


「ほら!さっさと奴の自由を奪うよ!やれ!あんた達!!」


 リーダーの言葉を合図に、残りの2人が照の身体の自由を奪った。1人は照の右腕の自由を奪い、もう1人は左腕の自由を奪った。


「ご苦労!ご苦労!相変わらず、あんた達は仕事が早いね〜」


 リーダーはご機嫌な様子で両手を合わせて、拍手した。力強い拍手の音が盛大に室内に響き渡った。


「「はい!これくらい楽勝ですよ」」


 照の自由を奪った2人が同時に同じ言葉を紡いだ。


「は、放してください!!な、何をするおつもりですか!!」


 照は必死に身体を左右に動かして抵抗したが、力及ばず、敵の2人によってあっさり抑え込まれてしまった。


「さ〜って。ここから私の仕事だね」


 リーダーはにやにやしながら、トップスのポケットから黒のバリカンを取り出した。


「よし、こうして、アタッチメントを装着してっと」


 リーダーがバリカンにアタッチメントを取り付けたことで、カシャンっと音が生まれた。


「それではいっきま〜す!大学ではモテモテな三宅照の髪の毛を削ぎ落としていきま〜す!!それで、アルバイトメンバー全員に坊主になった三宅照を見せま〜す!」


 照以外の3人は「おー!!」っと一斉に掛け声をあげた。そして、リーダーはバリカンのスイッチをオンにした。


「えっ!い、いやーーー!!」


 照はバリカンの音を感覚器官である耳で知覚するなり、今後の起こる未来が予測できたのだろう。必死に足をばたばたさせながら、自由を手に入れようとした。


 しかし、1対2である。抵抗虚しく、すぐに照は動けなくされてしまった。


「・・・ったく。大人しく髪を剃られろよ。金髪で碧眼で人と違う特徴を持ってるくせによ〜!それに、あんた見てるだけで、イライラするのよー!顔が良い上、性格も問題ないから、周囲から尊敬されてるさーー!!」


 リーダーは突如、怒鳴り声をあげ、照の足に鋭い蹴りをぶちかました。


「っ!?痛い・・・」


 照は蹴られた直後、顔を大きく歪め、唸り声を漏らした。


「ははっ!そう!その顔よー!ずっとそれでいればいいのよ!!」


 リーダーは歓喜の笑みに変貌し、仲間の2人も呼応して、同様の笑みを作り上げた。


「ああっ。坊主にする前に1つだけあんたに教えてあげる。最近、あんたアルバイト終了後、私物がなくなってたでしょ?あれ、犯人、私だから!!」


「え・・・。そんな。ってことは、リーダーは私の私物の場所をわかっていたってことですか。それに、自分が犯人なのに、私を何度も怒鳴りつけていたんですか・・」


 照は悲しみや絶望から両目から自然と涙を流していた。照はアルバイトのメンバー内に誰か犯人が存在すると、勝手にあたりをつけていた。だが、リーダーは絶対に犯人ではないと断定していた。それだけ、照はリーダーを信頼していた。まさか、アルバイトのリーダーが自分に対してそんな愚かな仕打ちを行うとは思えなかったからだ。


「いいわね〜〜。そう、あなたが絶望して涙を流す光景を1番目にしたかったのよ。いやー、最高だわ〜。あなたの泣いている絵だけでご飯3杯は食べられるわ」


 リーダーは興奮気味に捲し立てた後、「まぁ、それでもやめないけどね」っと、てへぺろっと舌を露わにして、照の髪を強引に掴んだ。


 それから、バリカンを照の髪に接近させ、根本から剃り上げようと試みた。


 残り数センチでバリカンが照の髪の根元に当たりそうになったところ。


 わずかに、バリカンの風圧が照のツヤがある金髪を攻撃していた。


 突如、ドアが何者かによってノックされた。


「すいません。以前、アルバイトを辞めた者ですけど、ちょっと用があるんで開けていただけませんか?」


 ドアの向こうから聞こえた声は男性のものだった。

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