第16話 少しずつ変化する大学生活
清水が解雇されて数日後。
時刻は午後0時30分。
大地は通常通り、いつもの食堂でカツ丼を食べていた。
食堂は日課のように学生、教員、大学の事務職員で溢れていた。
「あっ!いた!!探しましたよ先輩!!」
突如、凛とした女性の声が大地の鼓膜をいきなり刺激した。その声色は大地にとって聞き覚えのあるものだった。
その女性は上下紺色のジャケットとズボンを着ていた。
声の主の女性は丁度空いていた大地の目の前の席に座った。その結果、2人は対面する形となった。
「・・・青木さん。いきなりどうしたの?」
大地はカツ丼を食べる手を1度止め、箸をお盆の上に置いた。
「どうしたのって。先輩を見つけて、お話しに来たんですよ」
光は自身がテーブルに置いたお盆を見つめながら、大地の疑問に答えた。
ちなみに、お盆にはラーメンが載っていた。
「はぁ・・・」
大地は唖然としながら、ラーメンを1口すする光を視界に据えていた。
「それで、俺と一緒に昼食なんて食べてていいの?友達と一緒に楽しんだ方がいいんじゃないの?」
大地は箸を掴み、カツ丼を口に運んでから、意図が理解不能な光にそのように問い掛けた。
「それは大丈夫です。だって、私、先輩と同じで友達1人もいませんから」
光はあっさり返答するなり、黙々とラーメンをすすった。
「お、俺と同じって。俺に友達がいないような口ぶりだね」
大地は光の指摘が図星だったためか。明らかに動揺した様子が窺えた。
「それは、先輩が大学内で誰かと行動するところ拝見したことないですもん。アルバイトの時も、必要最低限なこと以外は単独行動していましたし」
光は歯に衣着せぬ物言いで大地に友達がいない理由を説明した。
「ははっ。確かにそうだね・・・」
大地は彼女の物言いに対して苦笑いで対処した後、昼食の完食を目的として箸を進めた。
数十分後。
「では、私はこれから講義がありますので。失礼します」
光はラーメンのスープを残して完食するなり、お盆を持ってイスから立ち上がった。一方、大地のところには空になったお盆があった。
「うん。わかった。またね」
大地はひらひらと手を振って光を見送った。
すると、背を向けていた光がいきなり身体を停止した。
「せ、先輩、以前は私を助けてくれて、ありがとうございました。そ、その・・・あのときは、すごくかっこよかったです。・・・これは本当です」
光は決して視線を大地に向けず、頬を紅潮させながら前方をじっと見つめていた。
現在、大地から光がどんな顔をしているかは認識できなかった。
「へっ!?」
光からの突然の感謝に、大地は間抜けな声を口内から漏らした。
「で、では!わ、私はこれで失礼します!」
光は普段の凛とした口調とは打って変わる動揺した口調でそれだけ残し、そそくさと駆け足でお盆の返却に着手した。
一方、大地はその光の慌ただしい行いを呆然としながら、目玉だけを動かし、追いかけていた。
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