第13話 親戚


「うわー。眠い〜!」


 大地はある棟の7階に設置された山西大学経営学部の教員のある研究室に身を置いていた。


「どうしたんだ?そんな大きい声出して。それに、顔も疲れてるようにも見えるぞ」


 イスに重ねた書籍を1冊ずつ本棚に並べるある男性が大地に視線を向け、苦笑いを浮かべた。


「ちょっと、昨日の夜に、同級生と色々ありましたね」


 大地は力強く目を擦った後、目を赤くしながら声を掛けられた人物に応答した。


「それは大変だったね。申し訳ないことをしたね」


 男は気持ちを示すために、大地に身体を向けて、軽く頭を下げた。


「それは仕方ないよ。だって、亮おじさんは俺の昨日の出来事を知らなかったんだから」


 大地はダンボールを開放する手を止め、やんわりと亮という男の謝罪を拒否した。


 それから2人はある作業に戻った。


「それにしても、亮おじさん。どんだけ書籍を購入したの?ダンボールが部屋に10個以上あるよ?」


 大地は再び作業の手を止め、依然として本棚に書籍を並べる亮にそう問い掛けた。


 確かに、研究室には複数のダンボールがまばらに置かれていた。


「ちょっとね。新しい研究を始めようと思ってね。だから、その研究に関連する書籍をひたすらネットで200冊ほど購入したんだ」


「本当に!?そんなに必要だったの?」


 大地はダンボールにぎっしり詰められた書籍らを取り出し、亮が乗る手すりの端に優しく落下しないように置いた。


「念のためだよ。念のため」


 亮は大地が先ほど置いた書籍を何冊か手に取った。


 それらにはすべてフォントで「マーケティング」っと記載されていた。


 遅くなったが、彼の名前は村松 亮(むらまつ あきら)。


 山西大学経営学部の教授であり、経営学の中でもマーケティングを専門領域としている。


 そして、大地の父親の弟であり、大地にとっておじにあたる存在である。


「よし!これからまだまだあるぞ。どんどん俺に書籍を渡してくれないか」


 亮は大地に書籍を渡すように要望を提示した。


「わかったよ!時間はすごい掛かりそうだけど」


 大地は頬を優しく掻きながら、また閉鎖されたダンボールを開放した。





 1時間後、大地と亮の作業は終了した。


 大地は亮の研究室を後にして、自宅に帰宅しようと試みた瞬間、ある女性が研究室に入る姿を視界に捉えた。


 その女性は後ろ姿でも光だと理解できた。


「どうしたんだろう?」


 大地は多少なりとも興味を惹かれたが、自身には関係ないと推測し、その場から移動した。


 それから、大地は7階に設けられたエレベーターに乗った。


 大地を乗せたエレベーターは音を鳴らすなり、急降下で目的地の1階へと下降した。

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