第12話 ある研究室


 山西大学のある棟の7階は経営学部の教員の研究室が並ぶエリアである。


 光は大地と別れた後、その1つの清水研究室にノックをして入室した。


「どうしたんですか?いきなりメールで私を呼び出して。先生は私に何か用があるんですか?」


 光は腕を組みながら、清水を視界に見据えた。


 清水 健太郎(しみず けんたろう)。山西大学経営学部の教員であり、20代で准教授になり、若くて出世した才能が人間である。


「いやぁ、ちょっとした用事が君にあってね。それにしても、1年生の中に最上級に顔が整った学生がいると聞いてはいたが。実際に目にすると、予想以上に素晴らしいな〜」


 清水は上機嫌で光の全身を舐めるように眺めた。


「な、なんですか?変な目でじろじろ見ないでください!」


 光は自身の身体を抱くように両腕で覆い、清水を睨みつけた。


「おぅ〜おぅ〜。見た目通り気は強いらしいなー」


 清水は現状況を心底楽しんでいるような表情を形成した。


「ああっ。そろそろ本題に入るか。呼び出したからには、伝えるわ。うん。単刀直入だが、青木、俺のセフレになれ」


 清水はへらへらした顔で衝撃的な言葉を光に対して放った。


「は?何言ってるんですか?馬鹿なんですか?脳みそ潰れちゃったんですか?」


 光はあからさまに軽蔑した目で清水を見下した。


「いや、馬鹿ではない。俺は本気だ。もちろん、ただとは言わない。報酬もそれなりに出すぜ。1回につき1万でどうだ?」


 清水はピンッと長い人差し指を真っ直ぐ立てた。


「正気ですか?そんなの受け入れるわけないでしょ。ご期待に添えずに申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」


 光は怒りをおくびにも隠さず、研究室から退出しようと試みた。


「おっと、待てって。それでいいのか。俺が、青木が受けた必修講義の単位を提供する資格があることは知ってるよな?」


 清水はキメ顔で光を制止した。


「・・・もちろん知ってますよ。それで、それって私に対する脅しですか?」


 光はわずかに眉をぴくぴく動かしながら後方に振り返った。


「脅しかどうかはそちらで判断して貰えばいい。まぁ、俺は、青木が未来でYESかNOのどちらかを選択するか、すでに見えてるがな」


 清水はにやっと含みのある笑みを浮かべた後、自身の机のイスに腰を下ろした。

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