第9話 女の子の家
「・・お邪魔します」
大地はおどおどしながら、律儀に入室のあいさつを行った。
一方、公香はそんな大地に目もくれず、ひたすらずんずんっと玄関を進み、リビングに繋がるドアを開けた。
すると、リビングとキッチンが一体化した1つの部屋が大地の視界に飛び込んだ。
どうやら、公香の自宅は玄関、洗面所、お風呂にリビングとキッチンが一体化した部屋しか存在しないようだ。
その証拠に、先ほど大地が通過した玄関の真ん中ら辺には洗面所とお風呂が一体化した部屋が1つだけあった。
「はぁっ・・・。もぅダメ・・・」
公香はリビングに到着するなり、部屋にあるベッドに身を委ねるようにダイブした。
ふわふわの掛け布団に公香の顔が直撃し、ばふっといった効果音が室内に生じた。
「もう俺はいらないよね。じゃあ、俺はここでお暇させてもらうね!」
大地は公香が疲れ切った表情でベッドにダイブしたのを視認した後、自分は邪魔な存在だと認識し、早々と部屋からエスケープしようとした。
「ダメ!」
公香は悲鳴に似た声で大地を制止した。
もちろん、大地は無視せずに、動作の途中で停止した。
「ダメ。本当に。お願い。今日は私から少しも離れないでよ。森本君」
公香はまるで小さな子供が救いを求めるようなうるうるした瞳で大地だけを見つめた。
大地は不覚にもその表情を表面化させた公香を小動物みたいで可愛いと思ってしまった。
その上、男の性なのか、恐怖に怯える公香を放っておけなくなった。
「わかったよ・・・。笠井さんがいいのなら」
大地は素っ気ない態度を示しながらも、多大なる緊張感を覚えながら、公香の横にそっと寝転がった。
『寝れん!!』
大地は天井を見上げながら、胸中で大きな声で叫んだ。
時刻は午前3時。
大地は公香に抱きつかれながら、彼女のベッドに寝転がっていた。
最初の方は眠りにつけるとなんだかんだで予想していた。
しかし、実際には不可能だった。
理由は至極シンプルだった。
公香が抱きついて来たり、足を絡めて来たり、理性を狂わせるフローラルな匂いを漂わせて攻撃してきたりと、それらの強烈なコンボが大地を遠慮なしに襲って来たためだ。
そのため、大地に緊張感と興奮が留まることを知らず、湧き出た結果、すっかり眠れなくなってしまった。
大地はぐっすりと安堵した表情で眠る公香に視線を向けた。
公香は不思議と大地の視線に気づいたのか、より一層身体を彼に寄せ、腕にも力を投入した。
「はぅっ!なんなんだよもぅ!わざとなんじゃないか〜」
大地は目を細め、少しの苛立ちを抱きながらも、不満を口にした。
その後、大地は朝まで一睡もできない羽目になってしまった。
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