第8話 予想外の展開
「ここのアパート」
先ほどと比較してだいぶ落ち着いた様子を醸し出す公香が大地におんぶされながら、ある3階建てのアパートを指差した。
現在、夜ではあるが、アパートの周囲には電灯が複数あるため、その建物の色はアップルグリーンだと認識できた。
「わかった。それでこのアパートの何階に笠井さんの自宅があるの?」
大地はアパートを眺めながら、公香にそう問い掛けた。
「3階。お手数だけど、・・・お願いします」
公香は3階まで上がってもらうのが申し訳ないと感じたのが、かしこまった態度で大地の質問に答えた。
「了解」
大地は公香の返答を瞬時に受容するなり、彼女をおんぶしながら、アパートに設置された階段を登った。
彼が約30段ほどの階段を通過した後、公香の自宅の扉の前に到着した。
「よし!着いたね!じゃあ、ここら辺で俺はお暇させてもらうよ」
大地は一瞬だけ公香に視線を移し、顔を窺った後、彼女をおんぶから解放しようと試みた。
「ダメ!」
公香は普段では想像できないほどの必死な形相に変貌し、大地の首に自身の両腕を巻き付けた。
「と、どうしたの!?笠井さん!」
大地は突然の異性からの予想外の行動に戸惑い、思わずアパート内では不適切な大きな声をあげてしまった。
彼の声がアパートの住人に迷惑を掛けた可能性も無きにしも非ずだ。
「・・・ごめんなさい。私、やっぱりまだ怖いの。当然かもしれないけど、私を襲った時岡君の狂気な顔がずっと頭から離れないの。だから、だから、森本君は私からちょっとでも遠ざからないでほしい」
公香は瞳を潤ませながら、大地の頭を離さず見つめた。今の状態では、これが、彼女が彼に正直な気持ちをより効果的に伝えられる方法なのだろう。
「はぁ。そうなんだ。でも、それじゃあ、俺、これからどうすればいいの?」
大地は公香の言葉の含意を薄々理解しつつも、敢えて彼女が求める事柄を探る疑問を投げ掛けた。
「それは・・・」
公香は言いにくい事があるのか、瞳をキョロキョロさせ、躊躇う表情を示した。
しかし、すぐに何かを思い切って決意したような顔を創造した。
「今から私をおんぶしながら、一緒にこの家に入って。そして、私から離れないで。・・・鍵はこれだから」
公香はポケットから自宅の鍵を取り出し、後方から大地の顔辺りに差し出した。
大地はシルバーの光沢のある鍵を横目で視認した後、自身の予想が的中したことを思い知らされた。
「本当に、・・いいんだね?」
大地は念のため公香に視線を向けずに、嘘であって欲しいと内心で願った。
「・・・うん。本当だよ・・」
公香は真剣な目つきで大地の期待を裏切った。
彼女の表情を大地が捉えることはできなかった。
「鍵、受け取るよ」
大地は胸中で盛大なため息を吐くなり、公香の自宅の鍵を用いてドアを優しく開け放った。
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