第6話 ざまぁ
「誰だ!?」
時岡はシャッター音がした方向に急いで視線を向けた。
彼は多少なりとも危険を感じたのだろう。
「時岡やりすぎだろ。それにすごいキモいぞ」
時岡の視界にはズボンのポケットに携帯を仕舞う大地の姿があった。
先ほど、シャッターオンを鳴らし、スマートフォンに写真を収めたのは犯人は大地だった。
「な〜んだ〜〜。森本先輩か〜」
時岡は心底安堵したような嬉しそうな表情を浮かべた。
公香は目を剥き、驚いた顔を示した。
「よかったですよ〜。赤の他人だったらどうしようかと思いましたよ」
時岡は愉快そうに一旦、公香から距離を取った。
公香はへたっと地面に座り込んでしまった。
「森本先輩、先ほど撮った写真、消してもらえません?そうしないと、それをばら撒かれたら俺の立場が悪くなるんですよ」
時岡はズンズンっと大地の元に歩み寄った。
「断る。どうして消さないといけない?」
大地は冷たい口調で時岡の要望を拒絶した。
「・・・それは困りますね。俺の言う通りにしてくれないんですか?先輩程度の人間が自分の考えを貫き倒すとか舐めてるんですか?」
時岡は雰囲気が変化し、苛立ちながら大地を睨みつけた。
「相変わらず、見下してんな。本当に、アルバイトを共にやっていた時から全く変わってないな」
大地は目を細め、辟易した表情でスマートフォンをズボンのポケットから取り出した。
「いいから!!早くスマホを俺に寄越せよ!!」
時岡は手を伸ばし、大地から無理やりスマートフォンを奪い取ろうとした。
「させるかよ」
しかし、大地は突っ込んで来た時岡をさらっと避けた。
「おおっ!?」
勢いよく走った時岡は大地に軽くかわされたことで、バランスを崩し、地面に倒れ込んだ。
「この!!調子に乗るなよ!!!」
時岡は即座に立ち上がり、再び大地からスマートフォンを奪うために彼めがけて飛び込んだ。
「よっと」
しかし、時岡の試みは失敗し、またしても大地にかわされ、地面に滑り込んでしまった。
「はぁはぁっ。なぜ、なぜ奪い取れないんだ。なんで俺がこんなに無様な姿を曝け出さなければならないんだ!」
時岡は近所迷惑を考えずに、大きな声で怒りを露わにした。
「それは俺と時岡に差があるからだろうな」
大地は呆れた顔で地面に膝を付けた時岡を見下した。
「この!?ふざけるな!俺がお前に劣ってるものなんて一切存在しないんだー!」
時岡は一心不乱に右拳を力強く握り、大地の顔目掛けて殴り掛かろうとした。
「あちゃ〜、暴力に走ったかー。じゃあ、正当防衛しないとな」
時岡が全力で拳を勢いよく振り上げた。
しかし、大地はその拳を右手の手のひらで余裕で受け止めるなり、グッと腕に力を込めた。
「うんっ。うおっ!うぎゃあ!痛ぇ!?痛ぇよー!」
時岡は悲鳴を上げた。
大地の握力が時岡の拳を締めつけた。
「いてぇ。いてぇーよぉ〜」
時岡は顔に大量の汗をかきながら、大粒の涙を流した。
「今後、笠井さんに2度と関わらない、と約束するなら解放してもいいぞ」
反応がないため、大地はより腕に力を込めた。その結果、時岡の顔がより一層歪んだ。
「わかった、わかりましたよぉ〜。もう、関わりませんからぁぁ〜」
時岡は号泣しながら大地に懇願した。
「・・・わかった。約束しろよ!」
大地は今までやられた仕打ちを思い出し、もう少し懲らしめてやろうと思ったが、すぐにその考えを抹消した。
なんか時岡のような弱い人間に仕返しをするのがアホらしくなったためだ。
大地がパッと時岡の拳を解放するなり、彼は泣きながらその場をダッシュで立ち去った。
鼻水を垂らし、嗚咽を漏らし、ぐちゃぐちゃでイケメンが台無しになった顔で。
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