第5話 ストーカー


 ある夜の日、公香はスーパーから自宅の帰路に着いていた。


 彼女は今通う大学に入学するために、県外から越してきていた。


 そのため、現在、公香は1人暮らしをしており、もちろん自炊も毎日していた。


 だから、彼女は定期的にスーパーに買い物に足を運んでいた。


 そんな公香は少し前から何者かに追跡されている感じがした。


 公香が歩くスピードに合わせながら、後を追ってくる人物がいるのだ。


 ここ最近、公香が夜に出歩くなり、同じ体験を何度かしていた。


 振り返り、後方を確認すれば良いのだが、公香は恐怖からそう言った行動を取ることが今までできていなかった。


 彼女は恐怖から逃れるため早歩きで足を動かした。


 しかし、後方に実存する何者かも公香のスピードに合わせて追ってきた。


 それでも公香は必死に足を動かし、結果的には走っていた。


 だが、彼らの距離は拡がるどころか、どんどん縮まっていき、結果的に公香は追いつかれてしまった。


 突如、公香の腕が何者かに掴まれ、無理やり壁に押さえつけられた。


 公香の家まであと少しの地点の人気の無い住宅地あたりで捕まってしまった。


「誰か!・・むぐぅ・・・」


 公香が叫ぼうとした瞬間、何者かの手のひらによって、強引に口元を覆われた。


「おーおー。危ねぇ危ねぇ。あやうく叫ばれそうだったぜ」


 公香をストーカーしていた何者かはニヤっと顔に汚い笑みを浮かべた。


「んん〜〜」


 公香は何者かの正体を認識した直後、口元を覆われながらも、目を剥き、悲鳴のような曇った声を漏らした。


 ストーカーの正体は時岡だった。


 彼がここ最近、公香を追跡していたのだ。


「いやー。ようやく襲えたぜ。狙いとしてはベストだったな。以前までは良いタイミングが存在しなかったからな」


 時岡は自身の手のひらをグッと公香の口元にプッシュし、彼女の全身を舐めるように眺めた。


「さぁ〜って。どうしようかな〜。まずは脅して俺と付き合わせるか、それとも無理やはりキスするかだな〜」


 時岡はペロッと盛大に舌なめずりした。


「あっ。その反応、キスの方が嫌そうですね。じゃあ、嫌がる方を選択しますかぁ〜」


 時岡は公香の口元から手のひらを解放し、続いて彼女の両手首を両手を使って掴み、身体の自由を奪った。


 公香はなす術なく時岡のやりたいようにされた。


「抵抗したら、・・・わかってますよね?」


 時岡は突如、すうぅっと笑顔を抹消し、冷酷な顔を示した。


 恐ろしいほどの感情の変化だった。


 一方の公香は恐怖から言葉を発することができなかった。


 ただ、抵抗すれば何かとんでもないことをされるのだけは想像できた。


 だから、公香はせめてもの抵抗として瞳に涙を溜めることしかできなかった。


「返事がないのは黙認ってことでよろしいですね?」


 時岡は喜びにより白い歯を剥き出すなり、自身の唇を公香の唇に近づけようと試みた。


 彼らの距離はどんどん縮まり、残り数センチで唇と唇が重なるまで辿り着いていた。


 徐々に時岡の唇が公香に接近してくる。


 公香はぶるぶる震えながらも現実を受け入れため、硬く目を瞑った。


『カシャッ』


 彼らのキスがあと少しで完成しそうな瞬間で、カメラのシャッターの音が生まれ、時岡と公香の鼓膜を遠慮なしに刺激した。


 その音に反応し、時岡は一旦、公香の顔から僅かに離れていったのだった。

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