第4話 人気の無い場所
「時岡君どうしたの?いきなり私をこんな人気の無い場所に呼び出して」
公香は周囲に視線を振り撒きながら、時岡にそう問い掛けた。
実際に、彼女は近所に自動販売機が存在し、大学の校舎に隠れるような日陰のある場所に身を置いていた。
「すいません、笠井先輩。いきなりこんな地味なところに呼び出して」
時岡は大地とは対面した際とは、明らかに異なる態度と様子を露わにした。
「うん。それは大丈夫なんだけど、理由を聞かせてくれたら嬉しいなー」
公香は微笑を浮かべながら、時岡に理由を述べさせようと試みた。
「そうですね。確かに、理由はお伝えしないといけませんね」
時岡は軽くチョンっと前髪をいじった。
「単刀直入に言います。笠井先輩!好きです!良かったら俺と付き合ってください!!」
時岡は盛大に腰を折り、頭を下げて右手を前に差し出した。
多分、付き合う気持ちがあるなら、手を取って欲しいのだろう。
静寂な空気が2者間において流れた。
公香は告白された瞬間は驚いた表情を示した。
「時岡君」
しかし、公香の顔や様相はすぐに普段のものに戻っていた。
時岡は未だに綺麗に頭を下げていた。
「気持ちは嬉しいです。でも、でも、ごめんなさい。私はあなたと付き合えない」
「え!?」
時岡はまさか振られるとは思いもしていなかったのだろう。目を剥き、一瞬で勢い良く頭を上げた。
「なんで。なんでですか?なんで俺を振ったんですか?」
時岡は公香に迫るような表情で理由を尋ねた。
彼からは先ほどのような余裕は一切なかった。
「それは、私が時岡君を好きじゃないから。私、自分が好きな人としか付き合いたくないの。だって、そうしないと相手に失礼だと思ってるから」
公香は真剣な表情で長々と告白を断った理由と自身の持つ信念を主張した。
時岡は口を半開きにキープしながら呆然と公香を眺めていた。
「・・・そろそろいいかな。私、用事があるんだ」
公香は時岡の顔を窺うなり、歩を進め、彼の真横を通過した。
しかし、時岡は公香に視線を向けられなかった。ただただ無言で前方を見つめていた。
時岡の後ろ姿からは尋常ない哀愁が漂っていた。
この哀愁はこの場から公香が消えても、存分に時岡の身体から放たれていた。
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