第3話 嫌な奴


 大地は昼食の焼き飯を全て食した後、食堂を退出した。


 今日、大地はこれから講義がないため、ただひたすら正門に向かっていた。


「あれ〜〜。森本先輩じゃぁないですかぁー」


 大地が正門付近に到着した頃、誰かが心底蔑んだような口調で彼に後ろからいきなり声を掛けた。


 大地は非常に嫌な感じを覚えながらも、無視するわけにはいかないため、身体全体の方向をチェンジして振り返った。


 すると、彼の視界に3人のザ陽キャの雰囲気を存分に漂わせる男が飛び込んできた。


「ウィ〜ス!元気だったすか?それにしても、森本先輩ってアルバイトだけでなく、学校生活でもボッチなんですね〜」


 真ん中で佇む男が舐め腐った口調でにやにやしていた。


「・・時岡」


 大地はボソッと彼の名前をつぶやいた。


 時岡拓人(ときおか たくと)。


 背丈は175センチ程度あり、紺色の長髪に紺色のキリッとした目をした女子ウケの良さそうな爽やかイケメンだ。


 その上、大学のサークルではエースらしく、ルックスも良いため女子達から異常にモテる。


 ちなみに、勉学もできるらしい。


 そして、掃除のアルバイトでは時岡が大地に1番仕事を押し付けていた。後輩にも関わらずだ。


 時岡にとって、大地は完全に下の身分の人間だった。


「森本先輩、俺の苗字知ってたんですね。まぁ、ボッチに記憶されるのは気分が悪いけど。なぁ?そう思わねぇ?」


 男達は「ギャハハッ」と同時に汚い笑い声を盛大にあげた。


 大地はその耳に痛い笑い声を黙って拒絶せずに、我慢して受け入れた。


「それでどうして森本先輩、大学でも1人なんですか?もしかして、友達が1人もいないからですか?」


 時岡はテンションを変化させずに、相手が不快に感じる問いを一切躊躇わずに口にした。


 その際、彼と周りの2人はとても愉快で楽しそうだった。


「・・・」


 返答したら面倒臭い事態が発生すると容易に予測できたため、大地は口を硬く噤んだ。


「えっ!もしかして図星ですか〜?沈黙を貫くってことは黙認してるってことでいいですか?」


 時岡は興奮しながら、腹を抱えて、大地を笑い物にした。


 残りの2人も同様の行動を披露した。


 大地は彼らの煽りにはらわた煮え繰り返らながらも、懸命に怒りを自制した。


「おっと。こうしてはいられない。俺達はこれから講義があるんですよ。森本先輩と違ってね」


 時岡はスマートフォンの電源を点け、時刻を確認する素振りを見せた。


「では、忙しい俺達はここで失礼しますよ〜。せえぜえこれからもボッチのスクールライフを楽しんでくれよ。森本先輩!」


 時岡はそれだけ言葉を残すなり、踵を返し、賑やかに会話をしながら、歩き出した。


 非常に楽しそうな声が大地の鼓膜を遠慮なしに刺激した。


 そんな最中、大地はただただ黙って彼らの後ろ姿を眺めることしかできなかった。

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