第2話 食堂


 大地は大学ではボッチで陰キャな学生だった。


 いつも1人で講義を受け、1人で校内を歩いていた。


 そして、今日も1人で食堂で焼き飯を食していた


 大地の周囲には賑やかに友人達と夕食の時間を過ごす大学生でありふれていた。


 大地はそんな環境に身を置きながらも、静かにスプーンで焼き飯をすくい、口に運んだ。


「ちょっといいかな?」


 突如、大地の向かい側の席に何者かが腰を下ろした。


 大地はスプーンをお盆の上に置き、視線を声のした方向に移動させた。


 彼の視界にある美少女の姿が捉えられた。


 その美女の名前は笠井 公香(かさい きみか)。


 ホワイトのロングヘアにブラウンのぱっちりとした大きな瞳、高い鼻に小さい桜色の唇を持った正真正銘の美少女である。


 その上、公香と大地は以前まで同じ職場でアルバイトをしていた。


 つまり、公香は大学の校舎を掃除するアルバイトを大地と一緒にしていたことを意味する。


「・・笠井さん。どうしたの?俺の向かい側の席に座って」


 大地は心底驚きながらも、脳内に浮かんだ疑問をそのまま公香に投げ掛けた。


 実際に、大地が公香と話した経験は片手で数えられる程度しか無かった。


「う〜ん。森本君がアルバイトを辞めた理由を聞くためかな」


 公香は大地の疑問に答えた後、テーブルの上で存在感を放つお盆を一瞥した。


 彼女の瞳には湯気を吐き出すうどんが映っていた。


「え!?何で笠井さんがそんなことを聞こうとするの?」


 大地は目を剥きながらも、返答はしっかり行った。


「それは、職場の人間の中で1番仕事ができる人物が辞めたからかな。1番能力が高い人が辞める理由が何なのか気になったからだよ」


 公香は大地と視線を一切合わせず、うどんだけをひたすら直視していた。


「いや、笠井さんは俺を買い被りすぎだよ。本当に。俺は大して仕事ができなかった人間だったよ」


「謙虚だね。絶対そんなことないのに」


 公香は目線を変え、薄く笑顔を浮かべた。その笑顔は非常に絵になるものだった。


「そろそろ公香の質問に答えてほしいなー」


 公香はくつろぐように足をぷらぷらと動かした。


「・・・つまらなかったからだよ。アルバイトが。ただそれだけだよ」


 大地は数秒ほど考えた後、辞めた理由を述べた。


 本当は具体的な理由が存在するのだが、敢えて大地は言わなかった。


「ふぅ〜ん」


 公香は大地の胸中を探るような眼差しで彼を見つめた。


 大地は沈黙と公香の顔の魅力に耐えられず、即座にさっと視線を逸らした。


「公香ー!こっち!こっちー!!」


 突如、公香を呼ぶ声が近所のテーブルから聞こえた。


 先ほどの声の持ち主は女性であり、勢い良く片手を振っていた。


 その女性の周りには複数の仲間らしき人物がいたため、おそらく公香の仲の良いメンバーなのだろう。


「ってことだから。私はそろそろお暇させてもらうね」


 公香はお盆を両手にスムーズに立ち上がった。


「ああっ。それと・・」


 踵を返し、歩を進めようた公香がいきなり身体を停止させて、振り返った。


「私もあの掃除のアルバイト辞めたから!」


「は?」


 公香は爆弾発言を残した後、ご機嫌な様子で仲の良いメンバーと合流した。


 大地はその光景を呆気にとられながら、眺めることしかできなかった。


 彼の胸中は説明せずとも想像できるだろう。

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