第4話 奥さん
その次の日、Aさんとまりみちゃんは朝起きて2人で朝食を食べていた。奥さんは朝起きて来ない。チャットで一番お客が多いのは、夜8時くらいから夜中の2時くらいまでだから、Bさんはいつも明け方まで粘って、昼頃起きてまた再開するのが1日のサイクルだった。
「昨日は、美佐子が騒いでごめんね。本当は離婚したいんだけど、離婚したら君を児童相談所に返さないといけないから」
「そんなの嫌!」
まりみちゃんは泣いてしまった。
「そんな風にならないようにするから・・・ごめんね」
Aさんが励ますと、まりみちゃんは笑顔で頷いた。
しかし、その目に涙はなかった。泣き真似をしていたからだ。
まりみちゃんがその日、家に帰って台所に行くと、いつも置いてあるはずのお菓子がなかった。こっそり、Bさんの部屋に行くと、まだ布団の中で寝ていた。しかも、部屋から変なにおいがした。まりみちゃんは、ニコニコしながら部屋に戻った。そして、Aさんが帰って来るまで、スマホをいじって遊んでいた。
自分の裸の写真を何枚も撮っていた。そして、Aさんのメールに送った。前からそうしていたが、今回はもっと際どい写真ばかりだった。
Aさんはメールに気が付いて「写真。ありがとう。仕事頑張るから。大好きだよ」と返事を送った。
***
2人は夜になって、夕飯を食べようと思ってキッチンに行ったが何も準備されていなかった。
「あ~あ。あいつ、夕飯も作ってくれなくなったんだ。じゃあ、俺がなんか作るからちょっと待ってて」
Aさんは即席で目玉焼きを焼いて、トマトを切って夕飯を準備した。
「おいしそう」
まりみちゃんは大げさに喜んだ。
「ごめんな。本気出すともっと上手に作れるんだけどなぁ」
2人は夕飯を食べて、まりみちゃんの部屋でゲームをしたりして寝るまで遊んでいた。そして夜は一緒に寝た。
3日ほど経つと、Aさんはしばらく奥さんと顔を合せていないことを気にするようになった。玄関に靴があるのに、部屋から出てきている様子が全くなかったからだ。恐る恐る部屋を空けると、肉が腐ったようなにおいが漂ってきた。そこで初めて、奥さんが亡くなっていることに気が付いたのだった。
Aさんはすぐに警察を呼んだ。
「気が付いたら妻が亡くなっていて・・・」
Aさんは一緒に住んでいながら、何日も気が付かなかったことを親族に責められるだろうと思うと憂鬱だった。それに、もうまりみと暮らせなくなってしまう。
「お嬢さんですか?」
「いいえ。里子です」
まりみちゃんは、父親が警察から事情を聞かれている間、若い警官に保護されていた。
「大変だったね。びっくりしたよね?」
まりみちゃんは首を振った。
「私、何で亡くなったか知ってるもん」
「どうして亡くなったの?」
「おじさんが私にエッチなことをしてたから、それで怒って自殺したの」
「え?おじさんに何かされたの?」
「うん」
まりみちゃんは泣き出した。
***
最近のニュースは子どもに対する猥褻事件ばかりだ。
『45の里親の男が、同居する10代の女の子に強制性交した児童福祉法違反容疑で逮捕されました。この男の妻はショックのあまり、数日前に自殺しており、その自殺も隠ぺいしようとしていたということです。男はその他にも、女の子を脅してわいせつな写真や動画を送らせていたようです』
「これは許せませんね。里子という弱い立場を悪用して、自分の性欲を満たそうとするなんて・・・人として最悪です」と、テレビのコメンテーターは話していた。
***
速報です。強制性交と児童ポルノ所持の疑いで逮捕されていた容疑者の男が、拘置所内で自殺を図り、現在意識不明の重体となっています。
***
児童相談所の職員たちはテレビを見ながら話していた。
「あの子はやっぱりダメでしたね・・・今度こそって思ったんですけど」
若い男の職員が切り出した。
「やっぱりあの子は黒ですよ。前の家も滅茶苦茶にして、夫婦が自殺しましたからね・・・その前は交通事故だったし・・・これで何度目か・・・」別の30代くらいの男が言った。
「今度は、施設にしますか?」と、若い男が尋ねる。
「いやぁ・・・怖いでしょ。絶対、また誰か死にますよ」
「でも・・・かわいそうじゃありませんか?本当はいい子かもしれないのに・・・きっと、偶然ですよ」50代くらいのおばさんが女の子を庇った。
「そうですか?どうなっても知りませんよ。じゃあ、もう一回・・・別の家庭に・・・」
***
門田まりみ 11歳
7歳の時、自宅が火事になって、両親と幼い弟と死別。
これまでの里親家庭:
1軒目 斎藤さん 里親夫婦が交通事故死。
2軒目 津田さん 夫婦で服毒自殺。里親男性から性的虐待あり。
3件目 久保寺さん 夫婦とも自殺。里親男性から性的虐待あり。
里子 連喜 @toushikibu
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