第3話 まりみちゃんとの暮らし

 3人での暮らしは順調だった。まりみちゃんは、不登校ではなく、ちゃんと学校に通っていた。家に帰ると1人でシャワーを浴びて、キッチンに置いてあるお菓子を待って自室に行く。夕飯まではスマホをいじっているようだった。


 宿題をやっているかどうかもわからなかったが、Bさんは気にも留めていなかった。ネグレクトを疑われなかったら、それで十分だった。


 Bさんは食事以外は、チャトレのために待機していた。そうしないと、リピーターがつかないからだ。夜中もネットに繋いでいた。旦那と寝るのは別々。お客が来るまでは、出会い系サイトのサクラもやっていた。どちらのサービスでも、会えそうな雰囲気を醸し出さないといけない。そして、下ネタを言われたら、話を合わせなくては、客が離れてしまうのだ。Bさんはそういうやり取りが苦痛で仕方なかった。


 出会い系の方は、メッセージだけだからいいのだが、チャットの方は顔出ししなくてはいけなかった。いつか知っている人に会ってしまうかもしれない。それが余計にBさんを追い詰めていた。


***


 まりみちゃんが来て1月ほど経ったある夜のことだった。


 Bさんはトイレに行きたくなって、階段を降りて行った。Aさんの家は二階建だったが、トイレは一階だけにしかなかった。。すると、一階奥にある、まりみちゃんの部屋から笑い声が聞こえて来た。一人で笑っているのかと思って、そっと聞き耳を立ててみると、Aさんがまりみちゃんの部屋にいたのだった。二人で笑いながら体をくすぐり合っているようだった。まりみちゃんもキャッキャと喜んではしゃいでいた。もう11時だったから、早く寝かせた方がいいと思ったが、声を掛けるのもためらわれたのでそのまま放っておいた。


 ***


 それから、まりみちゃんとAさんは土日に仲良く出かけるようになった。食事も2人だけで食べるようになった。奥さんはチャットに張り付いていたから、部屋からほとんど出ない暮らしをしていた。自分は節約してぎりぎりの暮らしをしているのに、夫はまりみちゃんにお金を使うようになった。洋服を買ったり、外食したり、遊園地に行ったりしていた。

「ねえ!借金があるのに、そんな無駄なことにお金を使わないでよ!」

「何言ってるんだよ。まりみのために一般生活費が振り込まれてるだろう?何で本人のために使わないんだよ。かわいそうだろ?」

「何言ってるのよ!!」

 奥さんは絶叫した。

「誰のための借金だと思ってるのよ!」

「養育費を使い込むなんて・・・クズだな」

 旦那はそう言い捨てて部屋を出て行った。

 奥さんはすべてを捨てて行方をくらましたくなった。旦那の借金は3000万円もあった。Aさん自身も自営業の他にも夜は居酒屋で働き、午前中は新聞配達をしていた。土日も午前中だけコンビニで仕事をしていて、まさに一日も休みがなかった。


 そんな中で、Aさんにとってはまりみちゃんだけが支えになっていた。

「私、パパの奥さんになりたい」

「はは。そうか!ありがとう。じゃあ、大人になったら結婚しようか」

「うん。でも、奥さんがいるでしょ?どうするの?」

「どうしようかなぁ・・・。美代子とは離婚しようかなぁ」

「うん!私、美代子さん嫌い」

 まりみちゃんは、Aさんの腕にしがみついた。


 ***


 Aさんとまりみちゃんは、どんどん親しくなっていき、夜も一緒に寝るようになった。土日はお風呂も一緒だった。Aさんとまりみちゃんは、すでに男女の関係になっていた。奇妙だったのは、誘ってきたのは、いつもまりみちゃんの方だったことだ。


「パパ。一緒にお風呂入りたい」

「パパ。体洗ってあげるよ」

「パパ。一緒に寝ようよ」

「パパ。まりみのこと、ぎゅっと抱っこして」

「裸で寝ると気持ちいいよ」

 もしかしたら、前の養育家庭で父親と同じようなことがあったのではないか・・・Aさんはそう思うこともあった。

 でも、まりみちゃんがかわいそうで聞けなかった。


 奥さんはまるで1人で住んでいるようになっていった。


 ある夜、奥さんは2人がリビングでゲームをしているのを見て激高した。

「あんたたち、何遊んでるのよ!」

 奥さんは半狂乱になって、二人のいる部屋に乗り込んできた。

「誰のために働いてると思ってんのよ!」

「何言ってるんだよ。俺は前と同じように働いてるし、まりみに買っているものだって、養育費の範囲を超えてないじゃないか!」

「それだって使わないで、借金返済に回すって言ってたじゃない!」

「そんなこと行ってないよ。里親手当のことだろう?」

 ちなみに里親手当が9万で、その他に、一般生活費としてのお金を5万円受け取ることができる。旦那は5万円を超えて金を使うことはなかったのだ。

「私、チャットレディなんかもうやりたくない!」

「じゃあ、外で働けよ」

「私が病気だって知ってるでしょ!」

 奥さんは泣き出した。「俺なんか週6日働いてるんだぞ!俺だってきついのに!」

「あんたが始めた仕事なのに、なんで私が保証人にならないといけないのよ!」

「夫婦なんだから当たり前だろう?」

「もう、嫌、死にたい!」

 奥さんは気が狂ったように叫んで、周りにあったものを掴んで投げ始めた。

「やめろよ!」

 旦那は止めたが、奥さんの怒りは収まらなかった。

 隣にいたまりみちゃんは、怖がって足を抱えて座っていたが、隠している顔を楽しそうに笑っていた。

 





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