第2話 Aさん夫婦

 旦那はAさんで自営業。奥さんはBさん、フリーターという夫婦がいた。早く結婚したので、まだ40代半ばなのに、子ども2人は成人して家を出ていた。家で犬を飼っていたけど、手持ち無沙汰になった。そこで、夫婦で話し合って里子を預かることに決めた。どちらも福祉に興味があって、以前から、恵まれない境遇の子どもに普通の家庭を経験させてあげたいと思っていたからだ・・・と、いうのは面談の時の建前で、実際は自治体からもらえる里親手当の14万を当てにしていた。

 ほとんどの里親はボランティア精神でやっているのだろうけど、手当が目当ての家庭も一部あるようだ。手のかからない子を預かるだけだとしたら、結構な金額ではある。実際は相当大変だろうが・・・。


 しかし、困窮していたAさん夫婦は14万も収入が増えると思ってしまった。奥さんは持病があってフルタイムで働くのは難しかったので、家で作ったハンドメイドの小物をネットで売ったり、チャットレディやウーバーイーツの宅配までやって金を工面していた。だから、里子として預かるのは、一番手がかからないと思われる小学生の女の子を希望した。中学生だと反抗期があって大変だし、小学生なら言うことを聞くと思ったのだ。性格は大人しくて従順な子がいいということにした。


 2人には子育て経験があったが、実の子供たちは両親を嫌って、1人は音信不通、もう1人からもまったく連絡がないという有様だった。つまり、この里親は子育てに全く向いていなかったのだ。


 しかし、経歴だけ見ると理想的な里親だった。一戸建ての持ち家で、子どものための部屋も準備できるし、犬も飼っている。


 ほとんどの里親は幼稚園以下の里子を希望する。だから、わりとすぐに希望通りの女の子と対面させられた。暗い感じの子で、見た目も可愛くなかった。夫婦はがっかりしていたが、児童相談所の職員の人たちの手前、優しそうなふりをしていた。


 女の子は夫婦の前に連れて来られても、上目遣いに見ているだけで何も話さなかった。


「お名前と年齢をお願いします」

「門田まりみ。9歳です」

 消え入るような声で目も合わせない感じだった。

 夫婦も自己紹介をした。まりみちゃんは、里親受けの悪そうな子どもだった。もう、大きいし、愛嬌のない子だから、人気はないだろうと夫婦は思った。こういうタイプの子はスマホを渡しておけば何時間でも放っておける。2人は喜んだ。


 それから、何度か顔合わせをして、宿泊も試したが、取り敢えず2人は優しいふりをしていた。そして、まりみちゃんはAさん宅に引き取られることになった。2人はまりみちゃんの部屋を作って、スマホを買ってやった。スマホは家のWifiに繋がるようになっている中古のiPhoneだった。


 まりみちゃんは近所の公立小学校に通うことになっていた。奥さんは面倒くさいが、UberEatsの配達をやめたいから、頑張って出かけて行った。外面は良くしなくてはいけないから、学校の教員とは笑顔で接した。


 子どもの洋服はメルカリでまとめ買いした古着。靴はヒラキ。学用品は実費を返金してもらえるから、できれば毎月10万以上を借金返済に宛てたかった。夫婦は不仲だったが、借金返済という同じ目標に向かって頑張っていた。借金はAさんの事業の借金だったが、Bさんが連帯保証人になっていたからだった。Bさんは生活苦のため、以前はスナックで働いていたが、体を壊してやめていた。奥さんは見た目がイマイチだったし、ノンアダルトのチャットレディではあまり稼げなかったから、里親をやることにしたのだ。


 ***


 まりみちゃんの部屋は1階の日の当たらない所で、床はたたみ。成人した子どもが長く使っていた古いベッドと机を与えられた。布団は古い物を天日干ししてだけだったし、小学生の子が使うには何もかも古臭かった。まりみちゃんは、どう思っているのか、顔色一つ変えず何も言わなかった。Aさんの車に乗って家に行く時にも、一言も離さなかった。話しかけるとボソッと返事をするが、頭をかしげるだけだったり、無言のこともあった。


 夫婦は子どもに何も話しかけなかった。奥さんは頭の中で、14万円振り込まれたらいくらまでだったら残せるかと考えていた。やっぱり、子どもが小学校に行っている間に、UberEatsの宅配やチャットレディをやろうかと思っていた。借金を返し終えたら、すぐに旦那と離婚したかった。



 




 


 


 


 










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