第2章 238 聖女の力

魔物の放った黒い閃光はアルベルトの隣にいた私にも向かってくる。 


「危ない! クラウディア!」


突如、アルベルトが私を突き飛ばした。


「キャア!」


勢いで後ろに飛ばされ、床に倒れこむ。


「う……」


痛みに耐え、顔を上げると思わず目を見開いてしまった。黒い閃光を浴びているアルベルトの足元が石化していたのだ。


「アルベルト様!!」


思わず駆け寄ろうとすると、アルベルトが叫んだ。


「駄目だ! 来るな!!」


<何!? 普通の人間なら……一瞬で石化するものを……!!>


魔物の声に焦りを感じる。

するとアルベルトが不敵に笑い、ネックレスを取り出した。そのネックレスには赤く光り輝く石が付いている。


<まさか……賢者の石……!!>


「ああ……だ、だが……この石の力は、ほぼ使い切ってしまったが……まだ、他にも最後の使い道がある……」


苦し気なアルベルト。既に石化は上半身にまで迫っている。


「そ、そんな……!! アルベルト様!」


「クラウディア! 受けとれ!」


どこにそんな力が残されていたのか、アルベルトが私に向かってネックレスを放り投げてきた。


「!!」


何とか石を受け取ると同時に、私の頭の中に信じられない映像が情報として一気に流れ込んできた。

驚くべきことに、それは私が回帰前に処刑されたその後の映像だったのだ。


ま、まさか……アルベルトは……!!


その時――


<次は、お前の番だ……! お前を石化させれば、この国の愚かな人間は全て消失することになる……!>


黒いモヤに包まれた魔物が頭の中に語りかけてくる。けれど、私はもう自分が何をするべきなのか全て理解していた。


自分の命も顧みず、アルベルが私に投げてよこした【賢者の石】で……


「いいえ、そうはいかないわ」


私は魔物を見上げた。


<ただの人間風情が我に敵うと思っているのか?>


「ただの人間……? いいえ、違うわ。あまり私を見くびらないでちょうだい」


アルベルトが最後の力を振り絞って投げてきた【賢者の石】を握りしめた。

すると石は眩しいほどに輝きを放ち始めた。


<な、何……!?>


私は魔物に向かって【賢者の石】を突き出し、錬金術を詠唱しながら空中に魔法陣を描き始めた。

不思議なことに……いつもなら錬金術を行使すると、トランス状態に入ってしまうのに私の意識は、はっきりしている。


これが……私の本当の力だったのかもしれない。


術式が出来上がると、赤い巨大な魔法陣が空中に浮かびあがる。


<そ、その魔法陣は……!!>


「そう、これこそ……聖女だけが使える錬金術『浄化』よ!!」


私の声と同時に魔法陣から目もくらむような眩しい光が放たれ、空中にいる魔物に向かっていく。


<グアアアアアアアーッ!>


光に直撃された魔物が絶叫する。そのあまりの光の眩しさに、私は顔を覆い隠した。


やがて……辺が異常な静けさに包まれ、ゆっくりと目を開けた私は信じられない物を目にした。


「え……?」


そ、そんな……まさか……?


私は思わず息を呑んだ――


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