第2章 237 魔物との対峙

「そ、そんな……どうして……ユダ……」


ユダは剣を構え、空を見上げるかのような姿で石化している。


「クラウディア! こっちにハインリヒがいる!」


背後からアルベルトが叫んだ。


「ハインリヒが!?」


慌てて駆け寄ると、一体の石像の前にアルベルトが立っている。そして目の前の石像を見て、息が止まりそうになった。


「ハインリヒ……」


彼もまた、剣を握り締めて上空を睨みつけている。よく見れば、全ての石像が空を見上げていることに気付いた。


「何故、空を……」


声が自然と震えてくる。


「……恐らく、上空に何者かが現れたのだろう。ここにいる騎士たちは……戦おうとしたが……全員、石に……」


「一体、誰が皆を……」


怖い。今までに無いくらいの恐怖で身体が震える。すると、アルベルトが肩を抱き寄せてきた。


「アルベルト様……」


アルベルトは私を見下ろす。


「大丈夫だ、クラウディア。お前は絶対に彼らのような目には遭わない」


「それは……アルベルト様が守って下さるから……ですか?」


「……」


しかし、彼は答えない。


「アルベルト様?」


再度呼びかけると、彼は口を開いた。


「それは、お前が聖なる巫女だからだ」


「え……? 聖なる巫女……?」


アルベルトは本当に私のことを聖女だと思っているのだろうか?


「これは恐らく石化の呪いだ。城の文献に記録がある。今からおよそ300年前に人々を石化させる魔物が現れた。その魔物を浄化させたのが聖女・セシリアだと記されていた」


「魔物……!」


私の記憶にはそのような魔物は存在しない。いや……単に知らなかっただけだったのかもしれない。

回帰前はこんなにもアルベルトに、そして『エデル』に関わってこなかったから……


「だが……大丈夫、安心しろ。お前に魔物を浄化させようとは思わない。もう、俺は二度とお前を失いたくは無いからな」


アルベルトは私に笑みを浮かべる。え? 二度と……? まさか彼は……


「アルベルト様? 今の言葉は一体……」


その時――


<何だ……? まだここに生きた人間がいたのか……? この国の人間たちは全て石化させたはずだったのだが……>


上空で恐ろしい声が響き渡った。


「「!!」」


2人で声の方を見上げると、上空に黒いモヤに覆われた4本足の魔物がこちらを見下ろしている。

目だけが異様に光ったその魔物は馬のようにも見える。頭には角のようなものが生えている。


その姿だけでも十分に恐ろしかったが、それよりも私は魔物の放った言葉のほうが気になった。


今、あの魔物は何と言った……? 全て石化……?

それでは……宿屋にいたリーシャ達や、救済院の人々も含めて全員……?


あまりのショックに立っているのがやっとだった。


<人間のくせに、我を謀りおって……この国の者共は全員滅ぼしてやろう……>


するとアルベルトが剣を抜き払った。


「確かに騙したのは悪いことだ! だが、たった2人だけが犯した罪なのに……何故全てを滅ぼそうとするのだ! この国の王として、見過ごすわけにはいかぬ!」


<黙れ!!>


魔物が叫び、口から黒い閃光をアルベルトめがけて放った――




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