第2章 235 【賢者の石】と私

 私が【賢者の石】に触れた途端……凄まじく膨大な量の情報が一気に頭の中に流れ込んできた。

それは私の知り得なかった自分のことに関する情報でもあり、見に覚えのない記憶もあった。

そしてその情報の中には……初めて目にする【錬金術】の術式も含まれていた。


 な、何……!? こ、これは……


すると頭の中に声が響き渡っていた。


<待っていました……あなたのことを……ずっと……>


え? 待っていた……? 待っていたとは私のこと? 一体あなたは誰……?


すると声は答える。


<私の名は……>



そこで、私の意識は途切れた――



 次に目覚めたときは、アルベルトの腕の中だった。


「……ディア……クラウディア! しっかりしろ!!」


「え……? アルベルト様……?」


ぼんやりする頭でアルベルトの名を口にする。その途端、彼の目に涙が浮かび……強く抱きしめられていた。


「良かった……! 目を覚ましてくれて……!!」


私を抱きしめているアルベルトの両肩が震えている。


「ど、どうされたのですか……? アルベルト様……」


「お前……あの【賢者の石】に取り込まれてしまったんだぞ? ほんの僅かな時間ではあったが……」


「取り込まれた……?」


一体どういうことなのだろう? するとアルベルトの身体が離れ……両肩に手を置かれた。


「言葉通りだ。一瞬【賢者の石】が強く光り、思わず目を閉じた瞬間にお前の姿は消えていた。そして次にまた光り輝いたとき……お前が倒れていたんだ。大丈夫だったか? どこか身体に異変は無いか?」


アルベルトが心配そうに私を見つめてくる。


「アルベルト様……」


私はじっと彼を見つめる。【賢者の石】に取り込まれたからこそ分かる。彼が私の為に、どれほどの犠牲を払って……守ろうとしてきたか。

それなのに、私はそのことに少しも気付いてはいなかったのだ。


「どうした? クラウディア?」


私があまりにもじっと見つめていたからだろう。アルベルトが首を傾げる。


「いえ、何でもありません。それよりも……今外はどうなっているのでしょう?」


神殿の揺れはいつの間にか止まり、辺は静寂に包まれている。……が、あのような禍々しい存在が現れてただで済むとは思えない。


「分からない……まだ外の様子を見ていないからな……」


首を振るアルベルト。

そこであることに気付いた。


「そ、そうだわ……! カチュアと宰相は……!」


いつの間にか、2人の姿が消えている。


「あ、ああ。あの2人なら……逃げたようだ」


「逃げた?」


「ああ、気付いたら姿が消えていた。恐らく俺がお前に気を取られているすきにここから逃げたのかもしれない」


「そうですか……」


その時――


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


神殿が再び激しく揺れだした。


「まずい!! 崩れるかもしれない! ここから出るぞ!」


「はい!」


どのみち、外の様子を見に行かなければならないのだ。


私はアルベルトの手を取った――

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