第2章 234 禍々しい者

「カチュア! 早く、その祭壇の上に【賢者の石】を乗せるんだ!」


「はい! リシュリー様!」


カチュアと宰相は【賢者の石】を手に入れたことで、もうアルベルトのことも私のことも気に掛けていない。

ふたりは意気揚々とした様子で祭壇に向かって行く。


「アルベルト様!」


このすきに私は彼に駆け寄った。


「ク、クラウディア…‥‥な、何故ここに……? こ、こんな危険な場所に……?」


彼はあちこち、酷い傷だらけだった。ここが危険なのは百も承知だ。


「話は後です、まずは怪我の治療をしましょう」


逃げるにしても、まずはアルベルトの怪我の手当てが先だ。

私は持ち歩いていた【エリクサー】の瓶蓋を開けると、アルベルトに降り注いだ。

途端に彼の身体は一瞬で治る。


「相変わらず、お前の【エリクサー】はよく効くな……いや、それよりも……」


アルベルトが言いかけた時――


「キャアアアアア!!」


「な、何だ!! この化け物は!!」


突如、背後で物凄い悲鳴が起こった。


「化け物!?」


驚いて振り向くと、いつの間にか禍々しいモヤが漏れ出していた扉が大きく開かれていた。

そして全身を黒いモヤに包まれた巨大な生き物のような存在が、怯える宰相とカチュアの前に立ちはだかっている。

その姿は……どことなく、馬のようにも見える。一体、あの生き物は何なのだろう?


「……しまった! 遅かったか……!!」


アルベルトが悔しそうに唇を噛む。


「アルベルト様……! あの正体は一体…‥!」


すると、突然黒いモヤに包まれた存在が言葉を発した。……いや、私達の頭の中に直接話しかけてきた。


<この扉の封印を……開けた者は誰だ……?>


「は、はい! 私です!」


「そうです!この者です! この者がこの扉を、開けました!」


言葉が通じる相手だと言うことが分かったからだろう。どこか安心したかの様子を見せるカチュアと宰相。


<そうか……お前がこの扉を開けたと言うのだな……? それならば、その『資格』をみせてみよ!!>


モヤに包まれた存在の両目が怪しく金色に光る。


その途端――


「キャアアアアア!!」


突然、カチュアが頭を両手で押さえて床の上に倒れた。


「ど、どうした! カチュア!!」


「いやあああ!! や、やめてー!! 助けて!!」


恐怖の為か、痛みの為なのかは分からないがカチュアが頭を押さえて転がりまわる。


<貴様……『資格』が無いな……それなのに、我をたばかったのだな……! 許せん……!>


「ひい!! ど、どうかお許しを!!」


宰相は腰を抜かしたのか床に座り込み、必死に懇願してくる。


<我をたばかったこの罪……償って貰うぞ!!>


黒い存在は叫ぶと、ものすごい速さで私たちの前を駆け抜けていった。


「しまった……!!」


アルベルトの顔が青ざめる。彼は何が起こっているのか理解出来ているようだ。


「アルベルト様、一体今のは……!?」


「説明は後だ!!」


アルベルトは祭壇に駆け寄ると、祭壇におかれた【賢者の石】に駆け寄った。

石は今まで見たことが無い程に、赤く怪しく光り輝いている。


そして彼がその石に触れようとした途端――


凄まじい閃光によって弾かれる。


「ウッ!」


途端に痛みによってか、顔を歪めるアルベルト。


「アルベルト様!」


私は祭壇に駆け寄り、【賢者の石】に手を触れた――



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