第2章 233 奪われた【賢者の石】
「何!? クラウディア、お前が本物の【賢者の石】を持っていたのか!?」
「さてはアルベルト様に手渡されていたのね!?」
宰相とカチュアが訳の分からない話を口にする。
「本物? 手渡されていた……? 一体何のことなの? 私が持つこの石は初めから私の物なのよ! 自分で作り上げた【賢者の石】なのだから!」
「何だと……? も、もしや‥‥…!」
宰相の顔が青ざめた。
「や、やめろ……言うな、クラウディア……!」
アルベルトが苦痛に満ちた声で私を止めようとする。宰相やカチュアの前で自分が錬金術師であることを明かすのは危険であることは分かっていた。けれど、もう構うものか。
これ以上の狼藉は見るに堪えなかったからだ。
「ええ、そうよ。私は錬金術師よ!」
「そうだったのか……! なら都合がよい! 早くその【賢者の石】をこっちへ渡せ!」
叫ぶ宰相。
地下神殿の扉は増々揺れが激しくなっていく。さらに扉の隙間からは何やら黒いモヤのようなものが漏れ出してきた。
「キャア!! リシュリー様!!」
その様子を見てカチュアが悲鳴をあげる。
「く、くそ!! 何をしている! クラウディア!!」
私がその場を動かないからか、眉間に青筋を立てた宰相が私の元へ歩き出そうとした時……
「な、何をする!! 放せ!!」
突如宰相が足元を見て叫んだ。
見ると、床に倒れていたアルベルトが宰相の左足を両腕で抱え込んでいるのだ。
「アルベルト様!!」
「ク、クラウディア……駄目だ……宰相に【賢者の石】を渡すな……それよりも……ここは危険だ……す、すぐに……離れろ!」
「危険……? 一体どういうことですか!?」
――次の瞬間
グオオオオオオ――ッ!!
突如、激しい咆哮が扉の奥から聞こえた。
「あ、あれは何……!!」
身をすくませたとき、宰相が吠えた。
「クラウディア!! これでもまだ【賢者の石】を渡さないつもりか!!」
いつの間にか宰相がアルベルトの首筋に剣を突き付けている。
「アルベルト様!!」
「さっさとその石を渡しなさいよ!!」
いつの間にすぐ傍にカチュアが来ていた。アルベルトと宰相に気を取られていて気付かなかったのだ。
パンッ!!
突然右頬を強く打たれたと思えば、そのはずみで手にしていた【賢者の石】を落としてしまった。
「あ!」
「これよ…‥この石が必要だったのよ!」
カチュアは咄嗟に拾い上げると、うっとりした目つきで【賢者の石】を手に取る。
「し、しまった……!」
「でかしたぞ!! カチュア!」
悔しがるアルベルトとは対照的に喜ぶ宰相。
「あなたたちは……その石を手に入れて何をしようとしているの……? 一体何をしたの!?」
打たれた右頬を抑えながら、私はカチュアと宰相を交互に見た。
「ふん、そんなの決まっているわ。この地下神殿の扉を開こうとしただけ。扉の奥には全ての世界を見通すことが出来ると言われた聖物が納められている。そのためには【賢者の石】が必要だったのよ! だけど、これでようやく聖物が手に入る‥‥…私は本物の聖なる巫女になれるのよ!」
そしてカチュアは勝ち誇ったかのように高笑いした――
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