第2章 231 神殿に響く声
足音を立てないように、ゆっくりとした足取りで神殿へ近づく。
幸い、入り口から離れた場所で彼らは捕まっていたので気配を悟られることも無く中に入ることが出来た。
「これが…‥神殿の内部……」
私は今まで一度も神殿の中に入ったことは無かった。回帰前、私はカチュアに害を及ぼす悪女とされた為に城中の至る場所を立ち入り禁止にされていたからだ。
「神殿て、こんな造りになっていたのね……」
見上げる程に高い石造りの神殿は天井付近に大きな明り取りがあり、そこから太陽の光が取り入れられるようになっているのだろう。
けれど、今見えるのは不気味な閃光が走る黒雲だ。
正面には大きな祭壇が設けられ、その背後には巨大な女神のような銅像が立っている。
「あれは……もしかして『聖なる巫女』の銅像かしら……?」
それにしても妙だ。
神殿内部に人の気配が感じられない。アルベルトは恐らく、この神殿にいるはずなのに……?
「一体、どこにいるのかしら……?」
アルベルトの姿を探す為に、私は周囲を見渡し……祭壇に近付いてみた。
すると――
「え……? 階段?」
祭壇の裏に周ってみると、床に地下へと続く階段があることに気付いた。まさか、アルベルトはこの地下にいるのだろうか?
「降りて確かめるしかないわね…‥‥」
ゴクリと息を飲むと右手を壁につけながら、ゆっくりした足取りで私は地下への階段を降り始めた。
地下へ続く階段は螺旋階段になっていた。壁に取り付けられた松明だけを頼りにひんやりとした空気に包まれた階段を降りて行くと、徐々に地響きのような音が近付いて来る。
「え……? この音は一体……?」
それどころか、建物全体が揺れているようにも感じる。一体何が起こっているのだろう?
急ぎ足で階段を降り切ると、正面にアーチ型の入り口が見えてきた。そこからはオレンジ色の光が漏れている。
そのとき、突然大きな声が響き渡った。
「な、何故だ!! 何故……静まらないのだ!」
それは宰相の声だ。
「どうしてなの!? これは本物の【賢者の石】では無かったの!?」
続いてカチュアの悲痛な声が響き渡る。
「え……? 【賢者の石】……?」
そんな馬鹿な。【賢者の石】なら私が常に持ち歩いているはずなのに……!
「だ、だから……言っただろう……? も、もうその石は……力を使い切ってしまったものだと‥‥…ただの石に……怒りを鎮める力などあるはずがないだろう……?」
今の声は……アルベルトだ…‥!
「うるさい! 黙れ! この若造が!!」
「グアッ!」
宰相の怒鳴り声と共に、何かを叩きつけるような音。同時にアルベルトの悲鳴が響き渡る。
「アルベルト様!!」
アルベルトが危険な目に遭わされている!
彼を……アルベルトを助けなければ――!
その叫び声に居ても立ってもいられなくなった私は急いで入り口を潜り抜けた――
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