第2章 230 ただならぬ状況
白いモヤをくぐり抜けると、すぐに【クリア】を口にした。
一瓶全て飲み切り、自分の身体が徐々に消え……わずか数分で完全に見えなくなった。これで誰にも見つかること無く歩き回ることが出来る。
「アルベルトは神殿に偵察に行ったのよね……」
ここから神殿まではかなり距離がある。
「みんな……どうか無事でいて………」
胸騒ぎを覚えながら、私は神殿を目指すために聖地へ向かった――
****
「え……? これは一体どういうことなの……!?」
聖地へ続く森に到着したとき、あまりの光景に目を見開いた。森の草木はすっかり枯れ果て、地肌が見えている。
空は不気味な赤黒い色に染まり、ギャアギャアと不気味に鳴く大群の鳥が頭上を飛び回っていた。
まるでこの世の終わりのような光景に足がすくみそうになる。
「本当に……前世で私が処刑されたときと良く似ている光景だわ……」
回帰前、私が処刑される前日までは快晴が続いていた。誰も面会に来ることもない、肌寒くジメジメとした監獄の中……ほんの小さな窓から外を眺めるだけが私に与えられた慰みの時間だった。
ただ、死を待つだけのどん底の暮らし……どれほど青い空の下を歩いてみたかったことだろう。
処刑される当日――
ようやく外に出られたかと思えば、空は赤黒く染まっていた。
今のような不気味な空の下で、ムチで打たれながら断頭台まで歩かされた記憶が蘇ってくる。
私の最期を見届けるために集められた観衆はこのような空になったのは私の呪いだと激しく罵り、時には石をぶつけられた。
その時の恐怖と痛みを思い出し……思わず足がすくみそうになる。
「大丈夫……ここは回帰前の世界とは違うのよ……!」
私は自分に強く言い聞かせると、不気味な森に足を踏み入れた。
****
生暖かい風が時折吹いて来る聖地を歩き続け……ついに神殿が見えてきた。
「ようやく辿りついたわ……え?」
異様な光景が目に飛び込んできた。
大勢の騎士たちが神殿の前でひとまとめにされて縛られていたのである。そして彼らに槍を突きつけ、脅している数人の騎士たちの姿もある。
「あの人達は……!」
私は再度自分の身体が消えていることを確認すると、囚われている騎士たちの元へ近付き……息を呑んだ。
「!」
騎士たちの中にはユダやハインリヒ……それにトマス、ザカリーの姿もある。けれど、アルベルトの姿がそこにはない。
アルベルトは一体どこに……?
急いで周囲を見渡し、神殿の扉が開かれていることに気付いた。
「カチュアの姿も、宰相の姿もないということは……彼らは神殿に入ったに違いないわ……!」
もしかすると、アルベルトも神殿に入っているのかもしれない。神殿からは禍々しい雰囲気が漂っている。
「何故なの? 黄金の果実を探したときは、こんな恐ろしい雰囲気は感じられなかったのに」
中で一体何が起こっているのだろう?
「中に入って確かめないと……」
意を決し、神殿の中に入る決意を固めた――
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