第2章 227 不吉な空


「はい、城の頭上が……あ、怪しげな空模様になっているのです!」


「え!? 城の頭上に……!?」


「クラウディア様。外に出て様子を見に行きませんか?」


マヌエラが尋ねてきた。


「ええ、そうね。行きましょう!」


私の言葉にその場にいた全員がうなずき、外へ向かった。


外には大勢人々が出ており、同じ方向を見て怯えている。


「あれです! 御覧ください!」


外に出ると、騎士がある方角を指さした。私達は一斉にそちらを向き……息を呑んだ。

私達の頭上の空は青く澄み渡っているのに、遠くに見える城の頭上の空は様子が違った。

まるで城を覆い隠すように赤黒い雲が立ち込めており、時折稲光が見える。


「い、一体あれは何だ……!」

「あの城には神殿があるというのに……!」

「終わりだ……この世の終わりだ……!」


人々は城の上に立ち込める不吉な空にすっかり怯えきっている。


「クラウディア様……一体何が起こっているのでしょう……」


リーシャがすっかり怯えきっている。


「分からないわ……だけど、きっと何か良くないことが起きているのは確かよ……」


そして私はマヌエラを見た。


「マヌエラ」


「は、はい……何でしょうか? クラウディア様」


マヌエラは震えながらも返事をした。


「確か、陛下は神殿に関わることで何かを調べに行ったと言っていたわよね?」


「ええ……そうです……」


アルベルトはカチュアは絶対に『聖なる巫女』では無いと言い切った。もしかすると『聖なる巫女』ではないカチュアが神殿で何か罪深いことを行ったのだろうか?

そしてアルベルトは事前にそのことを知っており、そのために神殿に……?


「……行かないと……」


思わず言葉が口をついて出てくる。あくまで憶測でしかないが、あの不吉な雲は宰相とカチュアのせいに思える。


「クラウディア様? どうされたのでか?」


騎士が声をかけてきた。


「アルベルト様たちが……いえ、皆が心配だわ……城へ行かないと!」


城に行くために走り出そうとしたとき、騎士に右手首を掴まれる。


「いけません! クラウディア様!」


「離して!」


必死で腕を振りほどこうとしても、騎士の力が強すぎて振り払えない。


「ご無礼をお許しください……ですが離す訳には行きません! あまりにも危険です!」


「そうですよ! クラウディア様! 何か恐ろしいことが起きているに決まっています!」


「そうです、エバの言うとおりです! 私も城へ行くことは反対です! お願いですから城へ行くなど恐ろしいことをは言わないでください!」


懇願してくるマヌエラ。


「そうよ! 危険だからこそ……城へ行かなくてはいけないのよ!」


「クラウディア様が行ってどうにかなるとでも言うのですか!?」


リーシャが目に涙を浮かべている。


「それは分からないわ。だけど、私はいずれこの国の王妃になる身。城にいる人たちが危険に晒されているなら、尚更助けに行かないと! それに……本物の聖女はこの私だからよ!」


「「「「え!?」」」」


その場にいる全員が驚いた様子で私を見る。


私は皆を説得するために……嘘をつくことにした――

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