第2章 226 胸騒ぎ

 「ん……」


一筋の眩しい光が自分の顔に差し込み、目が覚めた。


そうだった……私は昨夜、アルベルトと同じベッドで眠ったのだっけ……


何げなくアルベルトの方を振り向き、驚いた。既にベッドの中は空っぽだったからだ。


「アルベルト様……?」


起き上がってみると、部屋の中にもいない。もしかすると私は寝過ごしてしまったのだろうか?

部屋に時計が無いか周囲を見渡し、壁に掛けてある時計に気付いた。


「時間は……え? 八時半!?」


慌ててベッドから身体を起こした。一体、なんてことだろう。いくら疲れているとはいえ、こんな緊急事態の時に寝過ごしてしまうなんて。


「すぐに起きないと!」


朝の準備といっても、特にすることは無い。服のままベッドにはいってしまったからだ。

簡単な身支度だけ済ませると、私はすぐに下の食堂へ向かった。


「おはようございます、クラウディア様」


食堂に行くと、真っ先にリーシャが声を掛けてきた。


「クラウディア様、おはようございます」

「お目覚めになりましたか?」


マヌエラに続き、エバも朝の挨拶をしてくる。


「おはよう、皆。ところで陛下たちは何処へ行かれたの?」


するとリーシャの表情が曇る。


「はい……ほとんどの騎士様たちを連れて城へ偵察に向かわれました」


「え! 城へ偵察に……!?」


その言葉に青ざめる。


「でも何故そんなことを!? あの城は既に宰相に掌握されてしまったのではないの!?」


「ええ、そうなのですが……どうしても確認しなければならないことがあるそうなのです。神殿に関わることとしか、私達も聞いていないものですから……」


マヌエラが困った様子で説明する。


「陛下たちを信じて待つしかないのではないでしょうか……?」


俯き加減でポツリと呟くエバ。


「その通りです。我々はここで陛下たちが無事に戻ってくることを信じて待ちましょう」


するとそこへ昨日、この宿屋へ招いた騎士が部屋の奥から出てきた。今日は昨日とは違い、騎士のいでたちで腰には剣を差している。


「私は陛下よりクラウディア様達をお守りするために、ここに残りました」


「そうだったのね……」


頷くとリーシャが声をかけてきた。


「クラウディア様。とりあえず、朝食を召し上がりませんか?」


「ええ、ありがとう」


そして、私は少し遅めの朝食を取ることにした――



****


 十一時――


女性だけでテーブルを囲んで私たちはお茶を飲んでいた。宿屋に残った騎士は外で見張りをしてくれている。


「皆さん帰ってきませんね……」


お茶を飲みながらエバがポツリと呟いた。


「そうですね……私たち、こんなことをしていても良いのでしょうか?」


リーシャが申し訳なさそうにしている。けれども私はそれどころでは無かった。

先程からどうにも落ち着かないのである。


「クラウディア様? どうかなさいましたか?」


私の様子がおかしいことに気付いたのか、マヌエラが声をかけてきた。


「何故か分からないけれど……何だか嫌な胸騒ぎがするのよ……」


「胸騒ぎ……ですか?」


首を傾げるマヌエラ。


「ええ、そうなの」


その時――


ガチャ!


突然扉が開かれ、見張りに立っていた騎士が現れた。その顔色は酷く青ざめていた。


「どうしたの?」


声を掛けると、騎士は唇を震わせながら口を開いた。


「クラウディア様……し、城が……」


「城が……どうかしたの?」


いやな胸騒ぎを抱えつつ、私は騎士に尋ねた――

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