第2章 224 誘い
騎士の報告の後――
時刻は既に二十三時を過ぎていたということもあり、一旦解散して翌朝再び食堂に集合ということになった。
「こんな狭い部屋に泊めることになってすまない。この王都にも王室用の別邸があるが宰相の息の根がかかった者達がどこに潜んでいるか分からない以上、そこに行くわけにはいかないのでな」
先程の部屋まで連れて来てくれたアルベルトが申し訳なさそうに謝ってきた。
「ええ、分かっていますので謝らないでください。私がどんな宿屋でも大丈夫なことは既にアルベルト様は御存知ですよね?」
何しろ彼は『エデル』の旅に、スヴェンの姿で同行していたのだから。
「そう言えばそうだったな」
フッと笑うアルベルト。
「それに他の人達のことを考えれば贅沢は言えません。ベッドで眠れるだけ、ありがたいと思っております」
この宿屋は部屋数が少ない。私たち女性陣は部屋を与えられてはいるが、騎士達は全員宿屋の床の上で身体を休めているのだ。
勿論、国王である身のアルベルトも同様だった。
「クラウディアが聞き訳のよい女性で良かったよ」
アルベルトが優しい手つきで私の頭を撫でてくる。
「アルベルト様……」
私は改めてアルベルトをじっと見上げた。……まさか、彼があのスヴェンだったなんて未だに信じられない。でも目元にはその面影が残されている。
「どうしたんだ?」
「いえ、あの……もしよろしければ、今夜は私と一緒にこちらの部屋で休まれませんか? ベッドは一台しかありませんがソファはありますので」
「同じ部屋に泊まってもいいのか?」
アルベルトが目を見開く。
いずれ遅かれ早かれ、私たちは夫婦になるのだから何の問題も無い。
「はい、勿論です。それに、まだ聞きたいことが山ほどありますので」
「聞きたいこと……? ああ、そうか。成程、そういう訳だな。それでは同室させてもらおう」
アルベルトが扉を開け、私達は部屋の中へと入った。
「クラウディアはベッドを使ってくれ。俺はソファで休ませてもらうから」
「いいえ、とんでもありません。アルベルト様は身体が大きいのですからどうぞベッドでお休み下さい。私はソファで構いませんから」
「女性のお前をソファに寝かせて、俺がベッドに寝るわけにはいかないだろう?」
アルベルトがムッとした顔つきになる。
妙なところにこだわる人だ。大体私は前世で主婦だった頃、よくソファで夫の帰りを待つためにうたた寝をしていたことがあるというのに。
「女性も男性も関係ありません。アルベルト様はこれから指揮を取ったりと大変な立場にある方なのですから、どうぞベッドをお使い下さい。私は床の上だって眠れるのですから」
「……」
その言葉に少しの間、アルベルトは私を見つめ……ボソリと呟く。
「全く……そういうところは相変わらずだな」
「え? どうかしましたか?」
「いや、何でも無い。それではお言葉に甘えて、ベッドで休ませてもらうことにするよ」
「はい、ではその前に……」
「ああ。分かっている。まだ俺に聞きたいことが沢山あるのだろう?」
アルベルトは頷いた――
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