第2章 223 宰相の目論見

「ア、アルベルト様は錬金術師だったのですか? それに使えたとはどういうことです? 今はもう使えないとでも言うのですか?」


「ああ、それについては……」


そこまでアルベルトが言いかけたとき……


――コンコン


『申し訳ございません、陛下。偵察に行っていた騎士が戻ってまいりました』


ノックの音と同時に声が聞こえてきた。


「分かった、すぐに行く」


アルベルトが椅子から立ち上がったので、私もベッドから降りた。


「私も行きます」


「そんな身体で大丈夫なのか? もっと休んでいた方がいい」


「いえ、行きます。私が目を覚ましたことをユダ達はまだ知らないのですよね? 恐らく心配していると思うのです」


するとアルベルトが眉を潜めた。


「クラウディア……お前の夫になるべき男は誰だ?」


「え? アルベルト様ですが?」


「……そうか、分かっているならいい。それでは行こうか?」


そして私に手を差し伸べてくる。


「はい」


その手を掴むと、しっかりと握りしめられた――



****



アルベルトと一緒に皆が集まる食堂に行くと、大勢の騎士たちが集まっていた。

その中にはリーシャたちの姿もある。

私達が姿を現すと、途端に辺りは静まり返る。そこへ一人の騎士が進み出て来ると膝を折った。


「陛下、ご報告申し上げます」


「話してみろ」


「はい。先程宰相による晩餐会が開催されました。そこで『聖なる巫女』の命をクラウディア様が狙っていたという話をされました。黄金の果実を聖地に取りに向かった際に、クラウディア様の刺客に襲われたとのことでした」


「何だって!? それは違う! 襲われたのはクラウディア様の方だ! そんな話は全くのデタラメだ!」


ユダが声を荒らげた。


「ユダ、陛下の御前であるぞ。控えろ」


そこへハインリヒが注意する。


「……大変失礼いたしました」


謝罪の言葉を述べたユダはチラリと私に視線を送る


「話を続けろ」


アルベルトは何事もなかったかのように先を促す。


「はい、そこで宰相は言いました。クラウディア様は陛下に嫁ぐ為に『エデル』に来たとは言え、まだ婚姻も挙げていない以上は単なる敗戦国の王女だと。聖女の命を脅かす者は重罪に値すると言い……見つけ次第、即刻捕らえるように命じたのです」


「!」


その言葉に息を呑む。

いくら状況が異なるとはいえ、結局私は罪を被せられてしまったのだ。きっと捕らえられば最後。私に待つのは『死』であろう。


「なんという、馬鹿馬鹿しい話だ……作り話にも程がある」


アルベルトが忌々しげに唇を噛む。


「陛下、それだけではありません」


騎士の話は続く。


「何だ?」


「はい、神殿はもはや完全にクラウディア様を悪とみなしております。その為陛下にも矛先が向いてしまいました。神殿に歯向かう陛下の戴冠式を取り止めにして、廃位するべきだと言ったのです。その場にいる全員が宰相の話に同意しておりました」


騎士の言葉にいた全員がざわめく。


「廃位だと?」

「そんな馬鹿な!」

「宰相は自分が権力を握るつもりだ!」


「落ち着け! お前たち!」


するとアルベルトが声を張り上げ、一瞬でその場は静まり返る。


「このようなことは既に想定済みだ。初めから宰相の狙いは分かっていた。だが絶対に彼らの思うようにはさせない! 何しろ、我々には本物の聖女がついているのだからな」


そしてアルベルトは私に笑顔を向けた――





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