第2章 222 聖女とは
「アルベルト様は初めから御存知だったのですね? 私が錬金術師だったことを」
私の言葉に頷くアルベルト。
「ああ、王族なら知っていて当然のことだ。だが恐らく宰相は知らないだろう。お前が錬金術を宰相の前で使いはしない限りな」
「そ、う……なのですか?」
「そうだ、それだけ錬金術師というのは希少な存在であり、保護しなければならない存在なのだ。あのような腹黒い男にお前が錬金術師だということを知られるわけにはいかない。だから……」
アルベルトはそこで一度言葉を切った。
「俺は誰にも告げずに姿を変えて輿入れの旅に同行した。お前を迎えに行く兵士たちの中にも宰相が送り込んだ敵が潜んでいる可能性が高かったから……何としても守らなければならないと思ったからだ。騙すような真似をして本当にすまなかった」
申し訳なさそうに謝ってくるアルベルト。
私は今までの彼の話を信じられない思いで聞いていた。どうして回帰前と今とではこんなにも自分の状況が変わってしまったのだろう?
あのときのアルベルトは、私のことを徹底的に嫌い……無視してきたのに?
挙げ句に私は様々な罪で断頭台に送られて……命を散らされてしまった。
第一、私は自分が聖女だとは思えない。
錬金術師ではあるけれども聖女が持つ『神聖力』など持っていない。何より以前の生では悪女として名高い女だったのだから。
「アルベルト様、私は自分が『聖なる巫女』とは少しも思えません。何を根拠にそのようなことを仰るのですか?」
「根拠ならある。代々、『エデル』に伝わる話があるんだ。空に虹の雲が現れる時、この国に富と繁栄をもたらしてくれる『聖なる乙女』が現れると言う言い伝えが」
「その話なら知っています。ユダが教えてくれましたから」
「何だ……またユダの話か?」
すると、何故か不機嫌になるアルベルト。
「ええ……そうですけど、それが何か?」
「いや、何でもない。でもクラウディアも見たのだろう? 虹色に染まる雲を。あれが何よりの証拠だ」
「え? ですがあの虹色の雲は私ではなく、神殿にカチュアが現れたからではないのですか?」
「そんなのは初めから仕組まれていたことに決まっているだろう? 以前から宰相は偽の聖女を用意していたんだ。お前がこの国に到着後、頃合いを見計らってカチュアを聖女として人々に見せつけようとしたのだろうが……計画が狂った」
アルベルトはじっと私の目を見つめる。
「それは、お前がこの国にやってきた途端に彩雲が現れたからだ。さぞかし、宰相は慌てたに違いない。何しろ宰相は敗戦国から嫁いでくるお前を反対していたからな。まさかクラウディアが『聖なる巫女』だったとは思いもしなかっただろう」
「ほ、本当に私が聖女なのですか? 他に別の人がいるわけでは……」
「まだ、そんな事を言うのか? お前には神聖力が無いとでも言うのか? それは違うぞ。自分で気づかないのか? 枯渇した水を復活させることが出来たのも錬金術だけの力ではない。ましてや枯れ果てた聖木を蘇らせて黄金の果実がなったのは錬金術だけでは無理なんだよ」
「アルベルト様……? な、何故そんなことを知っているのですか?」
するとアルベルトはフッと笑った。
「それは……俺も錬金術が使えるからだ。いや……使えたと言ったほうがいいかな?」
「え……?」
その言葉に私は息を呑んだ――
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