第2章 142 隠し扉

 黄金の果実の袋を手にしたアルベルトと並んで、私達は彼の執務室を目指して歩いていた。

 その背後にはハインリヒの他に、アルベルトが連れて来た5人の騎士達も一緒だ。

 

 私は他の人達に聞こえない程度の囁き声でアルベルトに話しかけた。


「アルベルト様。お一人で黄金の果実の入った袋を持つなんて……重くはありませんか?」


「何、大丈夫だ。こう見えても俺は騎士達に混じって日々鍛錬をしている。お前が思っている以上に鍛えているから心配するな」


「ですが……ハインリヒにも半分は持たせても宜しかったのではありませんか?」


 主君にばかり荷物を持たせている騎士たちは居心地が悪いのではないだろうか?


「そうか。もう二人の間には信頼関係が成り立ったのだな」


 チラリとアルベルトは後ろを歩くハインリヒを見た。


「ええ、そうですね。……少なくとも私は彼を信頼しています」


「ふむ……なるほど。まぁ、護衛騎士との信頼関係は大事だからな」


 そこまで話したところで、丁度アルベルトの執務室の前に到着した。


「お前たちはもう下がっていいぞ。私とクラウディアで大事な話があるからな」


 アルベルトは騎士たちの方を振り返ると声を掛けた。


「「「「「はい」」」」」


 5人の騎士たちは声を揃えて返事をする。


「陛下、それでは私は扉の前で待っております」


 ハインリヒがアルベルトに声を掛けた。


「いや、時間がかかる話だからお前も下がっていい。クラウディアは私が部屋まで送る」


「さようでございますか……。では、私もこれで失礼致します」


 そして次にハインリヒは私を見た。


「クラウディア様……」


「何かしら?」


「また後ほどお部屋にお伺い致します」


「え?ええ。分かったわ」


 ハインリヒは頭を下げると、他の騎士たちと一緒に去っていった。


「では中に入ろう」


 アルベルトは扉を開けると、私を促してきた。


「はい……」


 言われるまま執務室に入るとアルベルトは扉を閉ざし、更に内鍵をガチャリと掛けた。


「アルベルト様?」


「黄金の果実があるからな。不届き者がこの部屋に侵入して持ち去って行く可能性もあるので、念の為にだ」


「分かりました」


 まさか彼が黄金の果実が盗まれることを危惧しているとは思わなかった。

そのままアルベルトは果実の入った袋を持って、本棚に触れた。


 するとカチャリと何かが開く音が聞こえ、驚くことに本棚がグルリと回転した。


「え……?」


「隠し扉だ。勿論この仕組を知っているのは……クラウディア。お前だけだ、宰相も知らない。ついてこい」


 隠し扉の奥へ入ろうとしたアルベルトが手招きをしてくる。


「はい」


 アルベルトの後を追うように、私も隠し扉の奥へと入っていった―――。


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