第2章 143 隠し扉の行く先は

 隠し扉の奥は単なる部屋だと思っていたのだが、少し様子が違っていた。

 確かに大きな部屋ではあったが、四方向に扉がついているのだ。けれどそれ以外は至って普通の部屋だった。大きなベッドの他に書斎机。それにソファセットも置かれている。 


「アルベルト様、この部屋は一体……?」


 背後で扉を閉めるアルベルトに尋ねた。


「驚いたか?この部屋は城中の至る場所に繋がっているのだ。今からここにある扉がどこに繋がっているのか教えるから、頭で覚えておけよ?」


「え?」


 アルベルトを振り返ると、妙に真剣な眼差しで私を見つめている。


「何、そんな堅苦しく考えるな。すぐに覚えられる。まずは書斎に続く扉と向かい合わせの扉は城の外に出ることが出来る道と繋がっている。そして左側の扉は地下水路に繋がっている。地下水路をどこまでも進めば王都に辿り着くことが出来る。そして右側の扉は地下牢に繋がっているのだ」


「え?地下牢?」


 何故、地下牢と隠し部屋が繋がっているのだろうか?けれど、尋ねるのはためらわれてしまった。アルベルトはいつになく真剣な眼差しで私を見つめていたからだ。


「どうだ?それほど覚えるのは難しくは無いだろう?」


 笑みを浮かべてアルベルトが声を掛けてくる。


「ええ、そうですね」


 彼は部屋に置かれていた衣装箱へ向かう、と錠前の鍵を回して蓋を開けた。


「とりあえず、黄金の果実はここに隠しておこう。後はお前に鍵を渡しておこう」


 袋ごと黄金の果実を中に入れると、私に二本の鍵を差し出してきた。


「え?鍵……それも二本もですか?」


 一本は衣装箱の鍵だということは分かる。けれど、もう一本は……?


「アルベルト様。この鍵ですけど……」


「ああ、この銅の鍵はあの衣装箱の鍵だ。こちらの銀色の鍵は書斎の鍵だ。予備として二本用意してあるのさ」


「書斎の鍵……そんなに大事な鍵を私に?」


「大事……か。確かに大事な鍵ではあるが……だからこそお前に託すのだ。いいか?もし、万一のことがあった場合はこの書斎を使え」


「万一の……こと?一体それは……?」


 しかし、アルベルトは返事をすること無くフッと笑い……突然腕が伸びてきて強く抱きしめられた。


「ア、アルベルト様……?」


「良かった……お前が無事で……」


 アルベルトは私を胸に埋め込まんばかりに強く抱きしめながら、髪に顔を埋めてきた。


「え?それって……」


「あの宰相のことだ。何か仕掛けてくるのではないかと思い、お前が信頼するユダ達に後を付けさせたのだ。案の定、狙われたのだろう?報せは聞いている。騎士に斬られそうになったと報告を受けた時は……生きた心地がしなかった……」


 アルベルトは声も身体も震えている。その様子から……本当に私を心配しているということが分かった。


「ご心配……お掛け致しました。ユダ達を派遣して下さってありがとうございます。お陰様で命拾い致しました」


 私はそっとアルベルトの背中に自分の手を回した――。




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