第2章 141 検証の結果

「どうだ?宰相。それにそこの女……。これでクラウディアの持ち帰った果実は本物だったと検証出来たのではないか?」


 アルベルトは勝ち誇った様子で宰相とカチュアを見る。


「ぐぬぬぬ……」


 宰相はもはや怒りを抑えきれない様子で、悔しさをにじませている。


「陛下、何度も申し上げておりますが私の名前はカチュアと申します。どうぞ名前で呼んで頂けないでしょうか?」


 カチュアは両手を前に組み、必死にアルベルトに懇願している。


「別に俺はお前の名前に等一切興味は無い」


 そんなカチュアにアルベルトは冷たく言い放つ。あからさまな態度はカチュアを嫌っていると言うよりは、むしろ憎んでいるようにすら見える。

 何故、こうまでして回帰前と今とでは彼の態度がここまで違うのか私には到底理解できなかった。

 アルベルトがカチュアに向ける目は、以前の私に向けられた目と同じだった。


「リシュリー。これだけ、差が出たのならもう次の勝負をするまでも無いだろう」


 アルベルトは腕組みすると宰相に視線を向ける。


「い、いえ。何をおっしゃるのです?陛下。私が何の為に今回、カチュア殿とクラウディア様に黄金の果実を取ってきてもらうように頼んだのかお分かりになりませんか?」


 そして宰相は不敵な笑みを浮かべた。


「何だと?どういうことだ?」


「陛下、お忘れですか?二つ目の勝負の内容を?」


「勿論、覚えている。生まれつき、身体の不自由な人々に奇跡の力を分けてあげることだと言っていたな?」


「さようでございます。我が国では身体が不自由で、尚且満足に医者にかかるお金もない人々をまとめて収容して面倒を見ている救済院があります。そこの人々に黄金の果実を与えるのです。何しろ、この果実を食すればどんな病でもたちどころに治ると言われておりますからな」


「はい、そうです陛下。困っている人々や救いを求めている人々を助けるのが聖女としての私の役目ですから」


 カチュアも宰相の後に続く。


「何が聖女だ……笑わせるな」


 私の隣に立つハインリヒが小声で呟くのを私は聞き逃さなかった。


「確かに苦しんでいる民を救うのは重要なことだが……随分自信があるのだな?」


「ええ、当然です。何しろ我々が持ち帰った果実は本物ですからな」


 未だに宰相は自分たちの果実が本物だと主張したいのだろうか?他の神官たちはどう思っているかは不明だが。誰一人口出しをするものはいない。


「分かった、よかろう。なら早速救済院へ向かおうか?確かこの王都には1番大きな救済院があることだしな」


 すると、何故かアルベルトの言葉に宰相は顔色を変えた。


「え?今でございますか?!」


「ああ、そうだ。早いほうが良いだろう?」


「いえ、それはまた後日改めて訪問することにしましょう。この通り、カチュア殿も……それに、クラウディア様も随分お疲れのようですからな?今日はここまでと致しましょう」


「確かに言われてみればそうだな。クラウディア、色々なことがあってさぞかし疲れたであろう?今日はこれで終わりにするか?」


 アルベルトは本日私の身に何かあったのか、まるで分かりきっているかのような口振りで尋ねてきた。


「私はどちらでも構いません。皆様の考えに従います」


 正直に言えば、確かに今の私は疲れ切っていた。何しろ命を狙われたばかりか、目の前で人が死ぬ瞬間を目撃してしまったのだから。


「よし、分かった。では今日はこれで解散することにしよう。黄金の果実はそれぞれ自分たちの持ち分は自分で管理する。依存は無いな?宰相」


「ええ。勿論でございますとも」


 アルベルトの言葉に宰相は笑みを浮かべて頷いた――。





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