第2章 89 カチュアと護衛騎士

「そうね、貴方は私を監視する為に護衛騎士を申し出たのだものね。私に怪しい動きが無いかを見張り、アルベルト様に報告する為に」


 彼は黙って私の話を聞いている。


「でも、その前に貴方はアルベルト様の忠実な騎士であり、互いを信頼しているわ。だから貴方に護衛騎士をしてもらおうと決めたのよ」


「そうですか。……よく分かりました」


 そして再び無言で歩いていると、前方から5名の騎士を連れたカチュアがこちらへ向かって来るのが見えた。


「あら、クラウディア様ではありませんか。おはようございます」


 カチュアは私を見るなり、笑顔で挨拶をしてきた。

 朝から自分の運の無さを呪いながら、私も何食わぬ顔で挨拶を返す。


「ええ、おはようございます」


 ハインリヒは無言で頭を下げる。そのまま私達は通り過ぎる為、彼らの脇を通り抜けようとした矢先――。



「お待ち下さい、クラウディア様」


 カチュアが背後から声を掛けてきた。


「……何か?」


「どちらへ行かれるのですか?」


「アルベルト様と朝食の約束があるので、これからダイニングルームへ向かうところです」


「あら?そうなのですか?それは羨ましいですね」


羨ましい?出来れば私はアルベルトと関わりを持ちたくはないのに。

いっそ譲れるものなら譲ってしまいたくらいだ。


「そうでしょうか?」


「ええ、とても羨ましいです。それに、いつの間にか陛下をお名前で呼ばれるようになっていたのですね」


 今度は一体何を言い出すのだろう?半ばうんざりしていると、今迄傍観していたハインリヒが不意に口を開いた。


「クラウディア様は陛下と婚姻される方です。共に食事をするのも、お名前で呼ぶのも当然ではありませんか?」


 え?まるで私を庇うかのような言葉だ。


「いえ、私は別にそのようなつもりでは……」


 まさか反論されるとは思っていなかったのだろうか?

 ハインリヒの言葉にカチュアの顔に戸惑いの表情が浮かび……背後にしたがえていた騎士たちに視線を移した。まるで彼らに助けを乞うかのように。


「おい。お前は騎士のくせに、この方がどなたかわからないのか?」


 1人の屈強そうな騎士が一歩前に進み出てきた。


「そうだ、この方は『聖なる巫女』のカチュア様であらせられるぞ」


「口を慎め!」


 彼らは次々とハインリヒに文句を言い始めた。

 すると――。


「口を慎むのはむしろ、お前達の方だ!クラウディア様はいずれこの国の后になられるお方だ!どちらが上の立場に有るかよく考えるのだ!」


 ハインリヒは強い口調で言い換えした。


「な、何だ……!この生意気な……!」


 1人の騎士が剣に手を触れたその時――。


「待って下さい!」


 突然カチュアが制止した。


「確かに仰るとおりです。クラウディア様はいずれ王妃になる予定の方でした。申し訳ございませんでした」


「いいえ、私なら大丈夫ですから。では行きましょう。ハインリヒ」


 これ以上揉め事は嫌だった。


「……分かりました」



 まだ何か言いたげにしているハインリヒを連れて、私はその場を後にした――。

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