第2章 69 約束

 アルベルトは少しの間、じっと私を見つめている。


「クラウディア、今の言葉……本気なのか?」


「はい、本気です」


「そうか……やはり……ったな……」


アルベルトは小さく呟いた。けれど、最後の言葉が聞き取れない。


「陛下?今何と仰ったのですか?」


「いや、何でも無い。だが、国のことを考えての発言ならこれほど嬉しいことはないな。何しろお前は将来国母となるのだから」


「国母……」


 本気でアルベルトはそんな事を考えているのだろうか?過去世ではカチュアと恋仲になり、私を断頭台に送ったのに?

 けれど、アルベルトは私の心の揺らぎに気づくこと無く続ける。


「そうだな、この際お前を王妃に迎えることを国中に知らせる為にも領地を巡ったほうが良いかもしれないな。それでは明日、もし体調が良ければ俺と一緒に領地の様子を見に行かないか?」


「はい、それは構いませんが……一体、今この国の領地では何が起こっているのですか?」


 すると、途端にアルベルトの顔つきが変わった。


「最近……領地のあちこちで日照りが続いている。水路は干上がり、井戸水が枯れかけている」


「え……?」


 その話を聞いて、私は思い出した。そう言えば、回帰前も同じことがあった。私が嫁いでからは1日も雨が降らず、領地の各地で水不足が起こった。その為にアルベルトは領地の視察の為に城を空ける日々が続き……そしてカチュアが現れた。


 そうだった。あのとき、カチュアがアルベルトと共に領地を視察し……やがて、雨が降って領地は救われた。

 今回もアルベルトはカチュアと一緒に領地を回っているのだろうか?


「どうした?クラウディア?」


アルベルトに声を掛けられ、不意に我に返った。


「あの、陛下に伺いたいことがあります」


「何だ?」


「もしかして、領地の視察に……カチュアさんを連れているのですか?」


「何だって?何故そう思うのだ?」


 アルベルトが眉をしかめた。ひょっとすると、違うのだろうか?


「いえ、彼女は……この国の『聖なる巫女』ですから」


「クラウディア。以前にも話したかもしれないが、俺は別にあの女を『聖なる巫女』とは認めていないからな?宰相や神殿の奴らが勝手に盛り上がっているだけだ。第一何故俺があの女を連れて領地の視察に行かなければならない?」


 でも貴方は過去の世界ではカチュアを連れて領地を視察したのだと……そんなことを言えるわけは無かった。ここはもう、素直に謝ってしまったほうが良さそうだ。


「そうですね。申し訳ございませんでした」


「いや……別に謝る必要は無い。すまない、言いすぎてしまった。ただ、お前は随分あの女のことを気にしているようだったから……つい」


 アルベルトはため息をつくと、私を見た。


「明日は午前9時に出発することに決めている。部屋に迎えをよこすから、体調が良ければ一緒に行こう」


「はい、分かりました」


そして、私達は食事を再開した――。






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