第2章 62 指輪
「とにかく、今はまだ休んでいろ。何しろ5日間も意識が無かったのだから急に起き上がったりしないほうがいいだろう。それでは俺はもう行くよ。仕事が残っているからな」
「あの、陛下」
アルベルトが立ち去ろうとしたので、声を掛けた。
「どうした?」
「リーシャはどうしたのでしょう?目が覚めた時、側にいなかったのですが」
「リーシャか……」
「はい。あの子は私が国から連れて来た大切なメイドです。何故今ここにいないのですか?」
側にいたメイドがリーシャではなく、エバだと言う事が気になった。
「あのメイドは今謹慎処分を受けている」
「謹慎処分……?何故ですか?」
「そうか……やはり覚えていないか」
アルベルトがためいきをついた。
「一体何のことでしょうか?」
「いや、リーシャはお前を貶めるように何者かによって催眠暗示をかけられていたのだ」
「リーシャが……ですか?」
まさか、また身体をのっとられてしまったのだろうか?
「そうだ。その顔……何か心当たりがありそうだな?」
「いえ、心当たりは特にありません」
余計なことは話さないでおこう。
「リーシャが証言した。お前にネックレスを外すように提案したのは彼女だそうだな」
突然アルベルトの口調が変わった。何故か怒っているように感じる。
「はい、そうです。ですが……」
しかし、アルベルトは私の言葉を遮った。
「何故外したんだ?肌身離さずつけておくように言っただろう?」
「はい、申し訳ございません」
アルベルトはかなり苛立っている。彼の機嫌を損ねるわけにはいかなかったので、素直に謝ることにした。
「クラウディア……。この際だから本当のことを言おう。お前は敗戦国の姫だ。この国に一方的に戦争を仕掛けた『レノスト』国の生き残りの王族だ。お前に戦争責任は一切無いが、それでもよく思わない人物が大勢いる。自分だってその事には気付いているのだろう?」
「はい……そうです」
「この国や、城の者達を信用できない気持ちは分かるが……せめて俺のことは信用してもらえないか?」
不意にアルベルトの声の調子が変わった。
「え?」
驚いてアルベルトを見ると、少し悲し気な顔で私を見ている。
「陛下……?」
「お前はリーシャから夜寝るときにネックレスは外した方が良いと言われたのだろう?」
「何故それを……?」
「彼女がそう、証言した。何者によって催眠暗示を掛けられたのかまではまだ分からないが、本人が自分の言った台詞を覚えていたからな」
「そうだったのですか……」
「あのネックレスは指輪に加工した」
そしてアルベルトはポケットから小さなケースを取り出すと蓋を開けた。
「これ……は……?」
そこに入っていたのは白い石の付いた指輪だった。そんな……確か賢者の石は赤だったはずでは……?
私の困惑の表情に気付いたのか、アルベルトが教えてくれた。
「あの赤い色は目立つからな。魔法で加工して色を白に変えた。とにかくこの指輪を今度から肌身離さず身に着けていろ。俺からの婚約指輪だと思ってくれればいい」
「!!」
驚いてアルベルトの方を見上げると、私の左手を取って薬指にはめて来た。
「陛下……」
「お前の目が覚めた事だし、リーシャを戻してやろう。今夜は無理せずこの部屋で食事を取るといい。またな、クラウディア」
アルベルトは笑みを浮かべると部屋を去って行った――。
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