第2章 61 あの人に似た彼
ユダはまさかアルベルトがやって来るとは思わなかったのか、慌てた様子で壁際に下がると片膝をついて深々と頭を下げた。
アルベルトはユダの方を一瞬見ると、すぐに向き直り、こちらへ向かって近づいて来た。そこで私は謝罪の言葉を述べた。
「陛下。ご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
そして頭を下げた。すると何故かアルベルトがため息をついた。
「……全く……詫びなどいらない。クラウディア。顔を上げろ」
「はい」
言われて顔を上げると、アルベルトは更に私のすぐ傍までやってきた。
「それにしても良かった。やっと目を覚ましてくれたんだな?侍女から話を聞いて慌てて会いにやって来たのだが……」
そして再びユダに目を向けた。
「まさか、俺の前に先客がいたとはな」
その言葉に俯いていたユダがビクリとする。
「陛下、ユダは……」
何故かユダに対する敵意を感じられたので、アルベルトに声を掛けるも途中で遮られてしまった。
「おい、そこの兵士」
「は、はい!」
そのままの姿勢でユダが返事をする。
「いつまでそこにいる?その恰好……訓練の最中で抜け出してきたのだろう?」
「そ、そうです……」
「ならさっさと戻れ。騎士を目指しているのだろう?」
「はい!失礼致します!」
ユダは立ち上がり、敬礼すると足早に部屋を出て行った。立ち去って行くユダの姿を何故かアルベルトは凝視している。
バタン……
扉が閉ざされ、部屋の中に私とアルベルトの2人きりになると彼は私の方を向き直った。
「クラウディア」
「はい」
「一体これはどういうことだ?」
「え?どういうこと……とは?」
アルベルトの言葉の意味が分からない。
「何故、俺よりも先にあいつがこの部屋に来ていたんだ?真っ先に会うべき存在は奴ではなく、俺だろう?」
何故かその声には苛立ちが含まれている。然も話し方もどこかぞんざいだ。
「え?それは私が目覚めた時に、既に部屋の前にユダが会いに来ていたからです」
「ユダ……か。全く、あいつはいつもいつも……」
アルベルトが小声で小さく呟いた。その物言いが引っかかる。
何故だろう?その口ぶりはまるでアルベルトがユダのことを知っているようにも聞こえてしまう。
「あの、アルベルト様」
「何だ?」
「ひょっとして‥‥…ユダのことを御存知なのですか?」
「え?!何故そう思うんだ?」
妙にアルベルトの声が大きい。
「いえ……。先程ユダのことを、いつもいつも……と仰っていたので」
「あ、ああ。それはお前がユダを護衛兵に任命したせいだ」
「え?」
「大体お前が一介の兵士を自分の護衛兵士に命じたから、奴は調子に乗って訓練を抜け出してここまで押しかけて来たのだろう?目覚めてすぐに話をする相手は普通に考えれば、奴では無く俺だ。順番がどう考えてもおかしい」
次にアルベルトは私のことを責めだした。
「あの、陛下……」
声を掛けると、突然我に返ったかのように謝って来た。
「す、すまなかった。病み上がりのお前にこんな台詞言うべきでは無かったな。どうかしていた」
突然謝って来たアルベルトに思わず狼狽えてしまった。
「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした。言われて見れば確かに陛下の仰ることは尤もです。一番初めにお話をするべきお方は陛下でした。それにまだお礼も述べておりませんでした」
「お礼?」
アルベルトが首を傾げる。
「はい、陛下が私を見つけ出して助けてくれたのですよね?」
誰からこの話を聞いたのかは伏せておいた。またアルベルトの機嫌が悪くなられるのは困る。
「その事なら気にするな。でも……お前を助けられて良かったよ」
そしてアルベルトは笑みを浮かべた。
その表情を見た時、私は思った。
やはり、あの人にどこか似ている…‥と――。
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