第2章 60 ユダとの会話

 扉の外で2人の会話が聞こえる。


「クラウディア様にお目通りできる許可をいただきました。ですが、つい先ほど目を覚まされたばかりですので手短にお願いします」


「すまない。感謝する」


そしてユダが部屋の中に入って来た。


「クラウディア様……」


訓練を抜け出してきたのだろうか?ユダの服装は旅で見慣れた茶色の長衣になめし皮の胸当て姿のままだった。


「ユダ……久しぶり?とでも言ったほうがいいのかしら?」


自分にはあの夜からどれほどの時間が経過していたのか分からなかったので小首をかしげた。


「クラウディア様、本当に……とても心配しました。もう、目が覚めないのではないかと思いました」


ユダは部屋の中程迄入ってくると何故か立ち止まってしまった。


「どうしたの?ユダ。何故そこで止まるの?話が遠いから、もう少し近くに来て貰えないかしら?」


「もう貴女は次期王妃になられるお方ですから、自分のような一介の兵士がおいそれと近付いてはいけない存在になられましたから……」


ユダは悲しそうな顔で私を見つめている。


「そう?だけど私は皆と旅をしていたときと何も変わっていないし、あなた達は大切な仲間だと思っているのよ?私たちは旅先で様々な困難に立ち向かった仲じゃない」


「そんな風に仰っていただけるなんて、光栄です」


相変わらずユダの表情は硬い。


「だから私は貴方を専属護衛兵に指名したのよ。信頼出来る人物だと思ったから」


「ありがとうございます。クラウディア様に指名していただいたと知らされた時はとても嬉しかったです。訓練を受けて一刻も早く騎士になり、二度とクラウディア様がこのような危険な目に遭わないようにお守り致します」


「フフ……頼もしい言葉ね。期待しているわ。ところでユダ、貴方は私に何が起こったか聞いてる?まだ誰からも事情を聞いていないのよ」


「はい、あまり詳しくは知りませんが‥‥…え?ひょっとして事情を聞く相手は俺が初めてですか?」


「ええ、そうね。一応そうなるわ」


「そうですか……。それでは俺がクラウディア様にとって初めての……」


何故かそこで口元に笑みを浮かべるユダ。


「ユダ、どうかしたの?」


「い、いえ、何でもありません!それでは説明させて頂きます。あれは今から5日前のことでした。夜中に宮殿内を巡回していた近衛兵がクラウディア様のお部屋の扉が開いていたことに気付いたそうです」


「巡回?近衛兵……?」


知らなかった。そんなことが行われていたなんて。回帰前は夜間も巡回する近衛兵など存在していなかったのに?


「そこで不振に思った近衛兵はクラウディア様のお部屋に入り、ベッドの中が空だったことに気付き、すぐに近衛兵や使用人たちがクラウディア様の捜索に当たることになったそうです。……生憎、我々には捜索命令が出ませんでしたが……」


ユダは俯いた。


「陛下も自らクラウディア様を探しに行かれました。そして連れて帰られたのも陛下でした」


「そう……」


あの時現れたのは彼だと思ったのに……。 

やはり私を助けに現れたのはアルベルトだったのだ。その事が少しだけ失望した気持ちになってしまった。


それにしても不可解だった。回帰前は私の存在をあれ程無視し、最後は処刑までしたのにこの変わりようはどういうことだろう。


「クラウディア様、どうされましたか?」


「いえ、何でも無いわ。教えてくれてありがとう、ユダ」


笑みを浮かべてお礼を述べるとユダの顔が赤くなった。


「い、いえ。自分のような者にお礼など……」


その時……。


「クラウディア、目が覚めたそうだな!」


突然アルベルトが室内へ入って来た—―。

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