第2章 55 アルベルトの気遣い

 2人だけの食事は静かに終わった。


「陛下、大変美味しいお食事でした。どうもありがとうございます」


私は素直に彼に感謝の意を述べた。

思えば、回帰前に私に出されていた食事は今よりも質素だった気がする。

けれどその時の私は『エデル』で王族に出される料理の基準が分からなかったし、国で出されていた料理と大差が無かったので気づかなかったのだ。


「そうか?喜んでくれて良かった。なら、明日は朝食も一緒に食べよう。流石に昼は無理かもしれないが……」


「え?」


アルベルトの言葉に驚き、うっかり言葉を漏らしてしまった。まさか朝から彼と一緒に食事を取らなければならないのだろうか?


「どうした?そんなに驚いた表情をして……」


訝しげにこちらを見るアルベルトに慌てて取り繕った。


「い、いえ。陛下は戦後処理でお忙しいお方なのに……わざわざ私の為に朝食の時間を割いて下さることに少し驚いただけです」


「何だ?それくらいのことか。別に気にすることはないだろう?俺たちは夫婦になるのだから」


妙に嬉しそうな笑みを浮かべるアルベルト。ひょっとして彼は少し酔っているのだろうか?


「そうですね……。では、明日もどうぞ宜しくお願い致します。それでは失礼致します」


椅子から立ち上がりかけた時、アルベルトが声を掛けてきた。


「待て、クラウディア。一人で部屋に戻るつもりか?」


「はい……そうですが?」


すると眉をしかめてアルベルトが立ち上がった。


「俺が部屋まで送ろう」


「え?で、ですが……」


いくらなんでも国王であるアルベルトに何度も部屋まで送って貰うわけにはいかない。


「駄目だ、一人で部屋に戻すわけにはいかない」


妙に真剣な目で私を見つめるアルベルト。


「はい、では宜しくお願い致します」

「ああ」


そして私達は一緒にダイニングルームを後にした。


 

 時折、廊下で使用人たちにすれ違ったかが彼らの反応は皆同じだった。

一瞬私に蔑みの目を向けると、頭を下げる。

アルベルトはそのことに気づいているのかいないのか、無言だった。


 少しの間、私達は歩き続け……やがて部屋の前に到着するとアルベルトが振り向いた。


「着いたぞ」

「はい、ありがとうございます」


部屋のノブに触れようとした時、アルベルトが声を掛けてきた。


「クラウディア」

「はい」


「いいか?先程のネックレスだが……寝る時も肌見放さず身につけていろ。分かったな?」


その瞳は真剣だった。


「わ、わかりました」


「部屋の戸締まりもしっかりしておけ。部屋に入ったら鍵は掛けろ。窓の鍵もな」


「はい……」


何故だろう?アルベルトの言い方は……まるで侵入者でも現れそうな物言いに聞こえる。


「あの、陛下……」


するとアルベルトが笑みを浮かべた。


「大丈夫だ、そのネックレスがあれば……ただ念には念を入れたほうがいいからな。お休み、クラウディア」


アルベルトは私に髪にそっと触れると、すぐに踵を帰して立ち去って行った。


「アルベルト……」


今のは一体何だろう?

少しの疑問を感じつつ、私は部屋の扉を開けた――。






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