第2章 54 アルベルトへの頼み

「は、はい。そうですけど。あの、もしや陛下はユダのことを御存知なのですか?」


確かユダは兵士でも階級はそう高くは無かった。騎士でも無い、単なる兵士をアルベルトが知っているとは思えなかったが尋ねてみた。

しかしアルベルトは私の声が聞こえていないのか、黙ってワインを飲んでいる。


「陛下?」


もう一度声を掛けると、アルベルトは空になったワイングラスをテーブルの上に置いた。


「知っている。一応クラウディアを迎えに行く人員の名簿は確認しているからな。人員の半分は俺の配下の兵士達で残りは宰相が選んだのだ」


何故か面白くなさそうな口調のアルベルト。

やはり半数は宰相の息のかかった兵士。けれど彼らは宰相の思惑通りにならなかった。旅の初めは全員私の敵だったはず。それがいつしか旅を続ける内に仲間になっていた。

恐らく宰相はそのことが気に入らず、全員監獄に入れたのかもしれない。


「そうだったのですね。でしたら……」


そこで私は口を閉ざした。

ひょっとして、ユダは宰相の手の者だったのだろうか?だからアルベルトは彼の名を口にした時、険しい顔をしたのかもしれない?


「俺はお前にこの城の近衛兵を護衛につけようと考えていたのだがな?」


「そうなのですか?ですが、私は旅を共にした彼が適任だと思うのですが」


回帰前、この城の人々は全員が敵だった。ただ1人、リーシャを除いて。

今、私がリーシャの次に信用できるのはユダだけだ。

本当はスヴェンがいれば彼にも頼むことが出来たのに。


「ところで、お前から見てユダと言う人物は腕は立つのか?その者は騎士ではないのだろう?」


「ええ、騎士ではありませんでした。私は素人ですから詳しいことは分かりませんが、腕は立つのではないかと思います。それに勇敢な人です」


大体、私の出迎えに来た使者達は騎士など1人もいなかったのに今更アルベルトは何を言うのだろう?

けれど、そんなことは彼の前で口に出来るはずは無かった。


「そうか、お前から見るとユダは腕が立って勇敢な男なのか」


何故かアルベルトはユダの話をするたびに機嫌が悪くなってくる気がする。

やはりユダは宰相が選んだ人物だったのだろうか?

どうしよう……。

やはり、ユダのことをアルベルトに尋ねた方が良いだろうか?


「あ、あの……陛下」


「いいだろう」


不意にアルベルトが頷いた。


「え?それでは?」


「他でも無いクラウディアの望みだからな。ユダをお前の護衛兵士に任命しよう。ただし、騎士になってからだ。騎士になる為の訓練を受けて、昇級試験に合格すれば彼をお前の護衛兵士に任命しよう」


「ありがとうございます」


アルベルトが承諾してくれた。ただ、『他でも無いクラウディアの望み』と言う言葉が気になったけれども。


「別に礼を言われるほどのものでは無い。他に護衛に付けたい人物はいるか?1人だけでは心もとないだろう?」


そう言えば回帰前、アルベルトはカチュアに対し5人もの腕の立つ護衛騎士をつけていた。

そして事あるごとに私は彼らから蔑みの言葉を投げつけられていたことを思い出す。


「今は結構です。その事については……後々決めたいと思います」


やはり安易にアルベルトが選んだ人物を自分の護衛として傍に置くのは躊躇われた。

何しろ、前回この世界で私は処刑されている。

油断するわけにはいかない。


「そうか。やはりまだ……か……」


アルベルトがぽつりと呟くものの、肝心の部分は聞き取れなかった。


「陛下?何かおっしゃいましたか?」

「いや、別に」


その後、私たちは言葉少なく食事を進めるのだった――。






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