第2章 48 2人きりの晩餐会

「では、こちらで陛下がお待ちになっております」


白い大きな扉の前でマヌエラは足を止めると、こちらを振り返った。

扉の前には2人の衛兵が立っている。


「お待ちしておりました」

「陛下が中でお待ちです」


衛兵が交互に声を掛けてくる。


「ありがとう、マヌエラ。それでは行ってくるわね」


私は背後にいるマヌエラを振り返った。


「はい、行ってらっしゃいませ」


すると1人の衛兵が扉に向かって大きな声を上げた。


「クラウディア・シューマッハ様がお見えになりました」


すると‥‥‥。


「入れ」


室内から凛とした声が響き渡る。

今のはアルベルトの声だ。まさか‥‥本当に室内はアルベルト以外誰もいないのだろうか?


「どうぞお入り下さい」


衛兵に声を掛けられ、頷くと私は室内へ足を踏み入れた。


「失礼致します。陛下」


部屋に入ると、すぐにアルベルトに頭を下げて挨拶をした。背後では扉が音を立てて閉ざされる。


「何、堅苦しい挨拶はいらない。顔を上げてこっちへ来いよ」


妙に気さくに声を掛けられ、警戒しながら顔を上げて驚いた。

てっきり大きなテーブルに2人で向かい合わせに座ると思っていたのに、用意されていたのは妙に距離感が近い丸テーブルだったからだ。


「は、はい……」


近付きながら思った。

一体アルベルトはどういうつもりでこんなテーブルを用意したのだろう?これではまるでレストランのテーブルのようだ。


「失礼致します……」


椅子を引いて着席すると、テーブルの上には全ての皿に銀色のクローシュが被せてあり、燭台の蝋燭の炎がユラユラ反射して光っている。


するとアルベルトが私に話しかけて来た。


「今夜は給仕も1人もつかない。2人だけで食事を楽しみたかったからな。料理が冷めないようにクローシュを被せるように命じたのさ」


「そう……でしたか」


一国の王が給仕もつけずに食事を?信じられない思いで話を聞いて頷く。


「それじゃ、早速食事にしようか?」


アルベルトが自分の目の前に置かれたトレーのクローシュを外していくのを見て、私も彼にならって蓋を開けた。

現われたのは私が好きなハーブを利かせた魚料理だった。


「あ……」


思わず口から言葉が漏れた。


「どうだ?魚料理……好きだろう?」


声を掛けられ、ハッとなって顔を上げるとアルベルトが私をじっと見つめている。


「え、ええ。好きですが……頂戴致します」


まさか私の為に用意したわけでは無いだろう。

早速魚料理を切り分けて、口に運ぶと香辛料が効いた柔らかい身がとても美味だった。

橋本恵だった頃の私は良く魚料理を好んで作っていたことをふと、思い出す。


「美味しい……」


思わずアルベルトの前だと言う事も忘れ、言葉が口をついて出て来た。


「そうか、美味しいか?良かった……用意させただけのことはあったな」


その言葉に目を見開いてしまった。


え?まさか……?


「どうした?クラウディア」


すると私の視線に気づいたのか、食事をしていたアルベルトが声を掛けてきた。


「い、いえ……まさか、私の為に魚料理を用意されたのですか?」


「当然だ。他に何の理由があるんだ?」


「い、いえ。その……ありがとうございます」


「礼を言う程のものじゃないさ」


アルベルトはこんなに砕けた様子で話すような人物だっただろうか?回帰前の私はあまりにも接点が無かったので、本来のアルベルトの人となりがまるで分らないので比較しようが無かった。


ただ、今のところ私に敵意は持っていないようだった。

それなら話を切り出しやすい。


手にしていたフォークを降ろすと、居住まいを正した。


「陛下に……お願いしたいことがあります」

「お願い?」


アルベルトが首を傾げる。


「はい、そうです」


私はアルベルトの瞳を真っすぐ見つめた――。

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