第2章 49 戸惑い

「俺にお願いか?どんな願いだ?クラウディアの頼みなら出来るだけ聞くぞ?」


身を乗り出して尋ねて来るアルベルト。

え?俺?今…‥‥アルベルトは自分のことを俺と呼んだのだろうか?

何故か彼の砕けた態度が行方知れずのスヴェンと重なる。


「スヴェン……」


スヴェンのことが気がかりで、思わず彼の名前を口にしてしまった。


「スヴェン?」


するとアルベルトが眉をしかめた。


「あ、も、申し訳ございません。それで話と言うのは……」


しかしアルベルトは何故か不機嫌そうにワインに手を伸ばした。


「俺と話しているのに別の男のことを考えていたのか?」


「え?」


「スヴェンというのは男の名だろう?ひょっとしてクラウディアにとって、特別な男だったのか?」


不貞腐れたようにワインを口にするアルベルト。


「……」


私は彼の態度に半ば呆れたように見つめていた。

まさか……アルベルトがこの私に嫉妬でもしているのだろうか?


「何だ?黙っているということはやはり特別な相手だったようだな?」


「い、いえ。そういう訳ではありません。ただ……驚いてしまっただけです」


これから重大なことを話すのに、彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。


「驚く?何に?」


「あの、陛下は……私にはあまり関心が無い方だと思っておりましたので……」


「お前に感心が無いはず無いだろう?何しろ俺の妻になるのだから」


「そ、そうですよね」


頷きながらも私にはアルベルトが何を考えているのか、さっぱり理解できなかった。けれど、少なくとも回帰前よりは私にずっと興味を示しているようだけれども……それはそれで非常に困る。

私はアルベルトと円満離婚してヨリックの元へ戻ると決めているのだから。


「まぁ、いい。それでスヴェンという男についての話だが……」


「え?」


何故スヴェンの話が続くのだろう?確かに彼の行方は気になるけれど、今はカチュアの要件を先に話しておきたいのに。


「あの、彼の話は……」


「スヴェンとはどんな人物だったんだ?」


アルベルトは私の話を遮ってスヴェンの話に持っていく。


「スヴェンは……」


「うん」


私の言葉にうなずき、真剣な眼差しでこちらを見つめているアルベルト。


「旅の途中に立ち寄った村にいた青年でした。とても正義感が強くて……頼りになる人でした」


「……それだけか?」


「……はい、それだけです」


本当はスヴェンについて話したいことはあったけれども、アルベルトの素振りから彼を良く思っていないことが感じ取れた。

まして私以外、旅の仲間から彼の記憶が消えてしまっていたなどと話せば、頭のおかしい人間に思われてしまうかもしれない。


ただでさえ、この城には私の敵が多いのに。


「何だ、それだけの話か」


アルベルトは空いたワイングラスをテーブルに置くと、再び私に尋ねて来た。


「それでは、クラウディア。お前の頼みというのを聞かせてくれ」


ようやく、カチュアの話を切り出せることが出来る。


「はい、陛下。実は私の部屋とカチュアさんの部屋を交換しても宜しいでしょうか?」


すると、アルベルトの顔色が変わった――。



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