第2章 33 大切な仲間

「ユダ……貴方、スヴェンを覚えていないの?」


尋ねる声が震えているのが自分でも分かる。


「はい。初めて聞く名前ですね。試しに全員に聞いてみますか?」


「ええ……お願い……」


別にユダを疑っているわけではないが、確認したかった。


「分かりました」


ユダは頷くと背後で宰相の悪口を言い合っている仲間たちを振り返った。


「おい!皆っ!スヴェンという人物を知ってるか?!」


ユダは大声で尋ねた。


「え?スヴェンだって?」

「誰だ、それは」

「聞いたことがない名前だな……」


けれど、彼らの返事はユダと似たようなものだった。



「……誰も知らないようですが?」


ユダが申し訳なさそうに眉を潜めて私を見る。


「ええ……そのようね…。分かったわ。それでは全員でここを出ましょうか?」


内心の激しい動揺を押さえつつ、私は皆を促した――。




**



「大丈夫ですか?クラウディア様」


無言で森の中を歩いている私にリーシャが心配そうな様子で声を掛けてきた。


「え、ええ……大丈夫よ」


するとユダが眉をしかめた。


「何処が大丈夫なのですか?クラウディア様は今にも倒れそうなくらい顔色が青ざめていますよ。相当無理をされているのではありませんか?」


「心配してくれてありがとう、ユダ。でも私はあなた達の方が心配だわ。多分宰相は私に探し出せるはずが無いと油断していたはずよ。けれど私は皆を探し出すことに成功したから、今度はどんな方法でいいがかりをつけてくるか、分かったものでは無いわ。……本当にごめんなさい」


「クラウディア様、何故謝るのですか?」


「そうですよ。クラウディア様は何も悪いことはされていないではありませんか?」


ユダに引き続き、リーシャが声を掛けてくる。


「それは私が宰相に憎まれているからよ。宰相は戦争で負けてしまった『レノスト』国の領地に立ち寄らせて、領民達から私が批判を浴びるように仕向けようとしたんじゃないの?」


「そうなのですかっ?!」


リーシャが驚きの声を上げると、ユダが話し始めた。


「確かに……あの宰相のことです。恐らくクラウディア様が考えていた通りだと思います。ですが宰相はクラウディア様を見誤っていたのですよ。こんなに高潔な方だとは想像もしていなかったのでしょう。……本当に貴女はご立派な方です。もし許されるならずっと、お側で仕えさせて頂きたい程に」


ユダの瞳は真剣だった。


「ありがとう、ユダ。貴方はこの国で数少ない私の味方よ」


するといつの間にか私の話を聞いていたのか、次々と他の兵士たちが周囲に集まってくると声を掛けてきた。


「俺もクラウディア様にお仕えしたいです!」

「私もお願いします!」

「宰相は我らの敵だ!」


「皆……」


私を取り囲んで、笑顔を向ける仲間たち。

するとユダが再び声を掛けてきた。


「クラウディア様、我々一同全員貴女の味方です。確かにこの国はクラウディア様にとっては敵地かもしれませんが、我々がいることをどうかお忘れにならないで下さい」


「…ありがとう、ユダ。そして皆」


胸に熱いものが込み上げてくるのを感じながら、私は皆にお礼を述べた。


後は気がかりなのはスヴェンのことだ。


スヴェンは一体何処へ行ってしまったのだろう?

彼は、ひょっとして宰相の回し者だったのだろうか……?


『姫さん!』


姫だからといって特別扱いせずに、気さくな笑顔を向けて私を呼ぶスヴェンの姿が脳裏に蘇る。


スヴェンに会いたい……。


私は無意識に、心の中で願っていた――。

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