第2章 34 彼らの為に

「クラウディア様、これからどうされるおつもりなのですか?」


森の中を歩きながら隣にいるリーシャが私にそっと囁いてきた。


これからどうするか……恐らくユダ達の事を尋ねているのだろう。


「まずはこの鍵を渡してきた兵士の元に戻るわ」


すると私の背後を歩いていたユダが声を掛けてきた。


「クラウディア様。後の事は自分たちで何とかしますのでどうかお気になさらないで下さい」


「何とかなるって……。貴方達は宰相の命令で監獄に閉じ込められたのではないの?」


「確かにそうですが……」


ユダが言葉をつまらせる。


「それなら、どうするおつもりですか?」


ヤコブが話に入ってきた。


「……陛下に直訴するわ」


不本意だが、そうするしかない。


「「「えっ?!」」」


3人が声を揃えて私を見た。



アルベルト……。


『エデル』に来るまではアルベルトには何の期待もしていなかった。

恐らく私のことは冷遇し、排除しようとしか考えていないと思ったけれども今回は違うようだ。

少しは……彼を頼ってみてもいいかもしれない。

そしてもし仮に却下されれば今後一切アルベルトには期待するのはやめよう。


「クラウディア様、本気で仰っているのですか?陛下がお話を聞いてくださると思っているのですか?」


ユダが尋ねてきた。


「ええ……何となくだけど、私の話を聞いてくれそうな気がするの」


「そうですか。……つまり陛下との仲は悪くはない…ということですね?…」


何故かユダが面白くなさげな表情を見せる。


「え?ええ。そうだけど……」


「そう……なんですね。うまくいってるんですね……」


どんどんユダの声が元気が無くなっていく。


「ユダ?お前どうしたんだ?陛下とクラウディア様の関係が良好なのは良いことだろう?」


「黙れヤコブッ!」


ヤコブの言葉に、ユダはまるで自棄を起こしたかのように反論し……その後、2人は城に到着するまでの間、口論を続けた。



「クラウディア様、あの方たち……一体どうしてしまったのでしょうね?」


何も事情を知らないリーシャが尋ねてきた。


「さ、さぁ……私には何のことだかさっぱり分からないわ」


リーシャの質問に、私は曖昧に返事をすることしか出来なかった――。




****



 先程の訓練場に戻ると、まだ彼らは訓練を続けていた。


そしてその場にいた全員が私がユダたちを連れて戻ってきたのを見て、驚きで目を見張っている。


 私は鍵を預けてきた兵士に近付くと、鍵束を差し出した。


「鍵をありがとう。助かったわ」


「何と!クラウディア様……本当に彼らの居場所を探し出しただけでなく、助け出されたのですかっ?!」


私に鍵を預けた兵士が驚きの表情で私達を見渡す。


「お前は俺たちを開放するためにクラウディア様に鍵を渡したのだろう?だとしたら俺たちはもう自由だ。違うか?」


ユダが私と兵士の間に割って入ってきた。


「…クッ……!」


兵士は悔しそうに俯く。


すると、ユダが私の方を振り返った。


「クラウディア様、後の事は我々で何とか致します。どうぞ行かれて下さい」


「ユダ……」


「この方の言う通りです。クラウディア様、お顔の色が優れないのでお部屋に戻りましょう?」


リーシャが声を掛けてきた。

…確かに精神的に物凄く疲れていた。

何しろ、スヴェンの存在がまるで初めから無かったかのように消え失せていたからだ。


「分かったわ。部屋に戻るわ」


頷くと、ユダ達を振り返った。


「皆、行くわね」



「はい、クラウディア様」

「助けて下さりありがとうございます!」

「本当に感謝しかありません!」


私は彼らの感謝の言葉を受けながら、リーシャを連れて部屋へと足を向けた。



まずはアルベルトが戻ってきたら、気が重いけれどもユダ達のことを報告しなければならない。



こんな時、スヴェンがいてくれれば……元気を分けてもらえるのに……。


気づけば私は再びスヴェンのことを考えていた――。



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