第2章 32 監獄 3

「キャアッ!あ、あの声は何でしょう!」


怯えたリーシャが私にしがみついてきた。


その時……。


「何だっ?!誰か来たのかっ?!」


聞き覚えのある声が監獄内に響き渡った。


あの声は……っ!


「ユダッ!!」


通路に向かって叫んだ。


「そ、その声はクラウディア様っ?!」


ユダの狼狽えた声が再び響き渡った。


「何だって!」

「クラウディア様が来たのかっ?!」

「こっちですっ!」

「ここから出してくださいっ!」


「皆!今行くわ!」


そしてリーシャの手を握りしめると、冷たい通路の中を進んだ。


この監獄はコの字型の造りの建物になっている。

そしてユダ達は最初の通路を曲がったすぐ先の牢屋に押し込められていた。


「皆っ!」


リーシャを連れて牢屋の前にやってくると、ユダが真っ先に駆け寄ってきた。


「クラウディア様っ!!」


他の兵士たちも次々に駆け寄ってくる。

勿論、ヤコブもユダ同樣閉じ込められていた。


「皆……まさかこんなところに閉じ込められているなんて思いもしなかったわ……」


「クラウディア様……」


ユダは冷たい鉄格子を握りしめ、私を見下ろしている。


「とにかく話は後にしましょう。今すぐここから出してあげるわ」


ポケットから鍵束を取り出すのを目にしたヤコブが驚いた様子で声を掛けてきた。


「クラウディア様、一体その鍵束はどうされたのですか?」


「ある兵士から預かったのよ」


鍵を探し出して解錠すると、鉄の扉を開けた。


キィ〜〜……


錆びついた扉の音が監獄に響き渡る。


「さぁ!皆すぐにこの監獄を出ましょう!」


私は全員に声を掛けた――。



**



「まさか、クラウディア様が我らを助けに来てくれるとは思いもしませんでした。本当に…ありがとうございます」


出口を目指して歩きながら声を掛けるユダの声はやはりどこか熱が込められているように感じられる。

リーシャもユダに何か感じたのか、警戒しながらユダに声を掛けた。


「あ、あの……あなた方は一体誰ですか……?」


「ああ、そうか。お前は俺たちを知らなくても当然だな。何しろ魔法を使う女にこの国に到着する寸前まで身体を乗っ取られていたのだから」


「そうですか……その時に…出会っていたのですね……。申し訳ございません。何も分からなくて……」


リーシャは頭を下げた。


「別に気にすることはないさ」


一方、私達の後ろをついてくる兵士たちは宰相の悪口を互いに言い合っている。


「くそっ!宰相の奴め……!」

「俺達が一体何したって言うんだ!」

「ふざけやがって……!」


こんな酷い監獄に閉じ込められたのだから、彼らの怒りは計り知れない。


「そう言えば、クラウディア様。途中、番犬に襲われたりしませんでしたか?何処かお怪我はされていないですか?」


ユダが心配そうに声を掛けてくる。


「大丈夫よ、私達は番犬に襲われること無く、ここまで来れたから……あ、出口が見えてきたわ!」


目の前に大きな扉が見えてきた。


私達はますます歩みを早めて扉へと向かった。




**


扉の前で私は麻袋に小分けして入れた唐辛子をユダ達に配った。


「皆、これをつけてちょうだい」


「これは……唐辛子ですか?」


ユダが不思議そうに受け取った。


「ええ、そうよ。私もリーシャも身につけているわ」


「そのネックレスは唐辛子だったのですか?」


ヤコブが尋ねてくる。


「ええ」


返事をしただけで、その場にいる全員がこの唐辛子が何に使われるかを理解してくれた。


「では、皆。この監獄を出ましょう。でもその前に……」


私はどうしても尋ねたいことがあった。


「スヴェンやトマス、それにザカリーはどうしたの?」


彼らの姿が見えないことがずっと気がかりだったのだ。


「トマスは城内にいる薬師のもとで世話になることが決まり、ザカリーも兵士見習いとして働くことが決まっていますよ」


ユダが説明して来れた。

けれど、そこに肝心のスヴェンの名前が出てこない。


「ねぇ、ユダ。スヴェンはどうしたの?」


すると、途端にユダの顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。


「え?スヴェン……?」


その様子に言いようのない胸騒ぎを覚えた。


そして次の瞬間、思いがけない台詞がユダの口から飛び出す。


「誰ですか?スヴェンとは」


ユダの顔は……とても嘘をついているようには見えなかった――。




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