第2章 31 監獄 2
この監獄は『嘆きの監獄』と呼ばれていた。
何故このような名前で呼ばれていたのか…理由は2つある。
1つ目の理由は、この監獄に入れられた者達の殆どが処刑されるか死ぬまで出して貰えることはないからだ。
その為囚人たちは自分たちの身を嘆き悲しみながら日々を過ごすことになるからである。
そして2つ目の理由は、この監獄から聞こえてくる『音』が理由であった。
『嘆きの監獄』がある森は、夜になると冷たい風が吹きすさぶ場所に建っている。
そしてこの風は、ガラスがはめられていない鉄格子の窓を風が通り抜けるときに恐ろし気な音が聞こえてくる。
この音がまるで人が苦し気に呻いている声のように聞こえてくるのだ。
そこで、この監獄はこう呼ばれるようになった。
『嘆きの監獄』と――。
**
軋んだ音と共に扉を開くと、早速リーシャを連れて『嘆きの監獄』の中へ足を踏み入れた。
内部はとても薄暗かったが、かろうじて窓から差し込む光のお陰で周囲の様子を伺うことが出来た。
この監獄は、壁も天井も床も全て冷たい石づくりとなっている。
通路を挟むように左右に並んでいる鉄格子の檻は、ますます寒々しい雰囲気を醸し出している。
付近に見える牢屋には人の気配は感じられなかった。
錆びついた鉄の匂いに、天井から時折垂れてくる水の音が監獄に響き渡る。
リーシャは大丈夫だろうか?
もしかするとこの牢屋の様子に恐怖を感じているかもしれない。
そう思った矢先……。
「う……」
リーシャの小さく呻く声が聞こえた。
彼女にとってはかなり刺激が強い場所なのかもしれない。
何より、回帰前の私は初めてこの牢屋に連れて来られたときに恐怖の為に泣き叫んでしまったのだから。
「大丈夫?リーシャ?」
振り返り、リーシャに声を掛けた。
「だ、大丈夫です……す、少し……怖いですけど……」
気丈に返事をするリーシャ。
「そう?もし怖いなら外で……」
言いかけて、ふと思った。
ここは森の中。
しかも外は番犬がうろついている。そんな場所で待っているよりはこの監獄の中にいたほうが余程マシかもしれない。
「大丈夫そうなら一緒にユダ達を探しましょうか?」
「はい、クラウディア様」
そして私達は監獄の中をユダ達を探す為に進み始めた。
「それにしても…何故、牢屋番がここにはいないのでしょう?」
リーシャが尋ねてきた。
「それは多分牢屋番の必要が無いからかもしれないわね。入り口の扉にも鍵がかかっているし、牢屋の檻の中も鍵がかかっているわ。それに何より、森には番犬がうろついているのよ。恐らく脱獄なんか出来ないはずだから牢屋番がいないのではないかしら?」
現に私がこの監獄に入れられたときも、牢屋番はいなかった。
「クラウディア様、人の気配が感じられ無いと思いませんか?」
リーシャの声には不安が混じっているように聞こえる。
「ええ、そうね……。ユダ達はもっと奥の牢屋に入れられているのかしら」
返事をしつつ、不安になってきた。
本当にユダ達はこの監獄に閉じ込められているのだろうかと……。
けれど、兵士が渡してきた鍵束の中の鍵で監獄の扉を開けることが出来たのだから間違いないはずだ。
その時――。
「おいっ!出せっ!俺たちをどうするつもりだっ!!」
遠くの方で男の喚き声が監獄内に響き渡った――。
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