第2章 28 宰相からの挑発 1
「そうですか。宰相とカチュアさんがこちらにいらしたのですね」
「ええ、そうですよ。ついでに預かった物もありますので」
兵士はこれみよがしにニヤリと笑った。
預かった物……。
敢えて私にその話をしたということは、何かそこに重要な意味があるのかもしれない。
彼の挑発に乗ってはいけない……。
「ところで、貴方は知っていますか?私を『エデル』迄連れてきてくれた兵士たちのことを?リーダーを務めていた人物の名はユダといいますが」
心を落ち着かせ、何の期待も込めずに尋ねた。
「ええ。よく知っていますよ?」
「え?本当に?」
兵士の予想外の言葉に驚いた。
てっきり知らないと言われると思っていたのに……。
「勿論ですよ。彼らは我らの仲間だったのですから」
仲間だった……?
その過去形の言い方が気になったが、ここで動揺しては相手の思うツボだ。
「では、ユダ達が何処にいるか教えて貰えますか?」
「ええ、いいですよ。ただし……」
そして兵士はポケットから鍵束を取り出した。
「この鍵がかかった何処かに奴らは閉じ込められていますよ」
兵士は取り出した鍵束を指に引っ掛け、持て余すかのようにカチャカチャと振り回した。
「!」
背後では兵士の様子に怯えているのか、息を飲むリーシャの気配を感じた。
「閉じ込められている……?という事は、ユダ達は牢屋に入れられているということですか?」
「ええ、そうですね」
「何故、彼らは牢屋に閉じ込められているのですか?何か罪でも犯したのですか?」
震えそうになる声を必死に押し殺し、兵士に尋ねた。
「さぁ?俺には良く分かりません。何しろ、宰相がユダ達を牢屋に入れる事を決めたのですから」
淡々と答える兵士。
やはり、宰相がユダ達を牢屋に閉じ込めたのだ。
その理由は聞かずともおおよその見当はついている。
「…ユダ達に会わせて下さい」
「さぁ、どうでしょうかね〜…」
兵士は何処までも私を馬鹿にしたいのかニヤニヤと笑みを浮かべ、態度を変えることはない。
それどころか、すでに訓練を終えた兵士たちも興味深げにこちらをじっと見つめている。
彼らの誰もが、この兵士を咎める気は無いようだ。
「本当はユダ達に会うことは可能なのでしょう?だから貴方も鍵を取り出して私にみせているのですよね?」
するとその時、初めて兵士の態度に変化が現れた。
「なるほど…お見通しってわけですか?」
兵士は鍵を振り回すのをやめると、じっと私をみつめてきた。
「……」
私はそんな兵士の視線を黙って受ける。
「いいでしょう。そこまで理解しているのなら…特別にクラウディア様にこの鍵束をお渡ししましょう。元々宰相からこの鍵をクラウディア様に渡すように預かっていたのですから」
そして兵士は私に鍵束を差し出してきた。
「ありがとうございます」
鍵束を受け取ると兵士は私に告げた。
「鍵は確かに渡しましたが……場所は御自分で見つけてくださいね。あ〜そうそう。一応この城の者達は宰相の箝口令に従い、ユダ達の場所はクラウディア様には教えないように言われておりますから。あ、それと陛下は只今所要のため不在だそうです。自力で彼らの居場所を探すことですね」
「そんなっ!」
悲痛な声を上げたのはリーシャだった。
私は黙って受け取った鍵束を見つめていたけれども……。
「分かりました、それでは鍵は預からせて頂きます」
ポケットに鍵束をしまうと、兵士が驚きの声を上げた。
「まさか…本気で自分で探すつもりですか?!」
「ええ、そのまさかです。鍵、どうもありがとうございます」
兵士に頭を下げると、リーシャに声を掛けた。
「では、行きましょうか?リーシャ」
「は、はい。クラウディア様」
そしてリーシャを連れて歩き始めた時、背後で私を嘲笑する笑い声が起こった。
「本当に見つけるつもりか?」
「馬鹿だな、強がってるだけだ」
「見つかりっこないだろう?」
「気の強い王女だな」
彼らは聞こえよがしに大きな声で笑い合っている。
「クラウディア様……」
リーシャの目が涙目になっている。
「リーシャ」
歩きながら、彼女の手を繋いだ。
「クラウディア様」
「大丈夫よ、必ずユダ達を見つけ出すから。私を信じて?」
そして繋いだ手に力を込めて、笑みを浮かべた。
「はい、クラウディア様……!」
リーシャは嬉しそうに返事をする。
宰相……。
私は絶対、もう二度と貴方の思い通りになどならない。
必ず生き残って……国に帰還するのだから――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます